No.15 [見えた光]

No.15 [見えた光]
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……………………
 
 
 
 
 

…………………ん……
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
ここは………………………………
 
 
どこだ………?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
身体中が………………痛い。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
目をゆっくり開けると………………
 
 
 
 
 
夜明け前の空があった。
 
 
 
まだ星が、薄く光って見える。
 
 
 
 
 
 

横たわっている自分の身体を、ゆっくりと……起こす。
 
 
 

 
 

………………?
 
 

 
 
手に何か………付いている。
 
 
 
 
 
 
 
「!!」
 
 
 
 
 
 
 
血だ。
 
 
 
それも、手だけじゃない。
 
 
身体中、血まみれだ。
 
 
 

 
 
訳が分からず、辺りを見回す。
 

 
森の中だ。

木々の葉が、そよ風でこすれ合う音だけが聞こえる。
 
 
 
 
 
 
 
「………………っ!」
  
 
 
 
 
少し離れた、開けた草原に………人が倒れていた。
 
 
 
 
痛む身体を引きずるようにして、ヨタヨタと、それに近付く。

 
 
倒れていたのは、三人だった。
 
 
 
 
 
 
 
「………………………」 
 
 
 

皆、亡くなってしまっている―
 
 
 
 
  
 
 

一体ここで………………
 
 
何が………あったんだ……………… 
 
 
 
 
 
 
 
 
いや、その前に………………
 
 
 
 
何で、俺はこんな所にいるんだ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
自分の名前―

吸血鬼である事、幼い頃の記憶もある。
 
 
 
 
 
ただ………
 
 
今より前の記憶が、全く無い。
 
 
 
 
どこから来たのか………
 
 
どこに住んでいたのか―
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
「っ!!!」
 
 
 
 
 


朝日が俺を照らした。
 
 
辺りに隠れる場所は無い。
 
 
 
 
 
 
もう、ダメだ………………
 
 

 
 
そう思ったが―
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………………………………?」
 
 
 
 
 
 
何だ………?
 
 
身体が………焼けない。
 
 
 
 
 
 
ただ、ジリジリと熱い感覚があるだけだ。
 
 
 
 
これは―
 
半吸血鬼の症状………
 
 
 
 
そういえば、吸血欲が全く湧かない。
 
 
 
 
 
 
―俺は、[半吸血鬼]になったのか………?
 
 
でも、何で………
 
 
 
 
それすら思い出せない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
木陰に身を隠して、しゃがみこむ。
 
 

 
 
 
 
 
戻る場所があるのかも、何も、分からない。
 
 
 
 
これから、どうすれば………………

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

―気が付くと、辺りはすっかり暗くなっていた。
 
 
 
座ったまま眠ってしまったようだ。
 
 
 
 
 
「っ……」 
 
 
 
 
腕の皮膚が一部、赤くただれている。
 
しばらく日が当たっていたんだろう。
 
 
半吸血鬼も、日光に当たれば、少しずつ身体が焼けていく。
 
 
 
 
 
 
 
「………………」
 
 
 
 
 
 
腹が、減った………
 
 
今までは無かった、[食べ物を食べたい]という感覚。
 
 
 
 

辺りには、何もない。
 
 
 
 
食べ物を求めて、月が照らす森の中を、フラフラと歩き出す。
 
 

 
 

食べられそうなものを、手当たり次第口にした。
 
 
時々、悪いもんに当たって吐いたりもした。
 
 
 
 
 
 
 
 

しばらく歩き続けると―
 
川があった。
 

 
 
 
水を浴びるように飲む。
 
 
 
 
 
とりあえず、今日はその近くで眠る事にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次の日。
 
 
 
 
川の魚を何とか捕まえて、焼いて食べた。
 
 
それがホントにうまくて………
少し涙が出た。 
 
 
火のおこし方を知ってて良かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―そうして、[食べる]為に、森をさまよう日々を過ごした。
 
 

 
稀に人間に出くわす事もあったが、話しかける前に、俺の姿を見て、悲鳴をあげて逃げられた。
 
 
 
 
森から出た所にある村にも行ったが………
 
猟銃で殺されかけた。 
 
 
 
 
 
その後、よく分からない連中に追い回されたりもしたが………
 
何とか逃げ切った。
 
 
 
 
 
 
 
吸血鬼は、忌み嫌われる存在。 
 
人間に助けを求める事はできない。
 
 
 
 
 
 
 


 
俺は………………
 
何の為に……生きてるんだ………………?
 
 
 

 
 
 
それに答えてくれる者はいない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ただ[命を繋ぐ]為だけに、永遠にも思える程、長い時を過ごした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―あれから、一体………………
 
 
何十………何百年の月日が流れただろう。
 
 
 
 
 
 
 
自分が何でこんなにも[生きよう]としてるのかは、分からなかった。
 
 
 
 
ただ…………[生きていなけりゃいけない]
 
そんな気がする………
 
 
その気持ちだけで、生きてきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………………」 
 
 
 
 
 
今日も、歩く死人のように、目的もなく………
森をさまよう。
 
 
 
 
 
 
 
 
天気が………いいな………………
 
 
 
 
 
木陰から、晴れた空を眺める。
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 

「あんた……
 
吸血鬼だね?」 
 
 
「!」
 
 
 
突然声を掛けられ、心臓が止まりそうになった。
 
思わず声の主を凝視する。
  
 
 
 
 
 
「……怖く、ないのか」
 
 
「―あたしが小さい頃住んでた村の近くにも、一人吸血鬼がいてね。
吸血欲を抑える調合薬と、血の代わりに飲める飲み薬を作って渡してた」

「……そうか…………」
 

「待ってな。
作り方は覚えてるから」 
 
 
 

彼女が去ろうとするのを、慌てて手を上げて制止する。
 
人と話すのは………………
 
いつぶりだろうか。
 
 
 
 
 
俺が事情を話すと、疑う事も無く、彼女は話を聞き、心配してくれた。
 
 
それだけで救われた。 
 
 

 

なのに―
 
 
自分の家にまで招き入れてくれた。

彼女が[神]ってやつに見えた。 
  
 
 
 
 
 
 
 
「ちょっと、腕の傷を見るよ」
 
「あぁ……頼む」  
 
 
「………………」 



 
 
 
難しい顔をして、しばらく考え込む彼女。
 

その様子を、固唾を飲んで見守る。
 
 
  
 
 
 
 
「パリトキシンと、ドウモイ酸か………」
 
「……………?」
 

 
 
 
 
すると彼女は、テキパキと手際よくいろんな葉っぱやら花やらをすり合わせて、火をおこして湯を沸かし―
 
それを煎じたものを、俺の前に差し出した。
  
 
 
 
 

「飲みな」
 
「こ、これは………?」
 
 
「記憶を呼び戻す手助けができそうなハーブを調合して、作った薬さ」
 

「記憶が戻るのか!?」
 
 
 
「………………それは分からない。
 
あたしの薬は、あくまでも本人の[自然治癒力]を助けるものなんだ。

あとは、あんた次第」
 
 
 
「………………そうか」
 
 
 
 
受け取った薬を一気に飲み干す。
 
 
 
 
 
 
 
 
と、彼女が口を開いた。 
  
 

 
「行くあてがないんだろ?
しばらくここにいるといいよ」
 
 
「………………いい、のか?
見ず知らずの俺を置いて………」
 
「いいのいいの!
あんた、悪いやつじゃないだろうし。
ちょうど人手が欲しかったんだよ。

……あたしはルシア。
あんたの名前は?」

 
「俺はヴァンだ。
すまん、世話になる」 
 
 
 
 
 
 
彼女―
ルシアは、俺に希望の[光]を与えてくれた。
 
 
彼女の為に、そして、記憶を取り戻す為に………
精一杯の事をしていこうと、心に誓った。
 
 
  

 
 
 
 
 
それから、ルシアとの生活が始まった。
 
話し相手がいるってのは、本当に嬉しい。
 
 

俺が役に立てる事は何だってするつもりでいたから、畑仕事も苦無く頑張れた。
 
 
 
 
 
―そうしていつしか、彼女は俺にとって、何でも話せる家族みたいな存在になっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして、季節が一巡りした。 
 
 
 
 
 
今日も、薬を貰いに村人がやってきた。
 
彼女は[白魔女]で、近くの村の[薬師]でもある。
 
 
ルシアが作る薬は、病気の症状を[悪]として抑えつけずに、身体の自然治癒力を助ける事を主とする。
 
自然と[共存]しながら生きてきた、白魔女ならではの考え方に基づくものだ。
 
 
 
 
 
 
村人はルシアに礼を言い、帰っていった。
 
 
 
 
 
 
 
次の日、村人がお礼として持ってきたのは、狩りに使う[弓矢]だった。
 
 
弓矢は、いらないんだが………… 
 
 
 
………
 
……弓矢………………
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………っ……」 
 
 
 
 
 
 
 
それを見た時―
 
 
なぜか、腕の傷がズキリ、と痛んだ。
 
 
 
 
 
 
 

………………?
 
 
 
心臓が強く脈打ち始める。
 
 
 
 
 
 

 
 
何か、映像が………………
 
 
頭の中に………浮かんで………………………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「!!!」
 
 
 
 
 
 
 
その瞬間、今までの記憶が一気にフラッシュバックした。
 
 
衝撃で心臓が爆発しそうな程苦しく、過呼吸になる。
 
 
 
 
 
………息が………っ、できない……………!
 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………ヴァン?大丈夫……?」
 
 

「………………………い………だした」
 
「え?」
 
 
 
 
「思い、出した………………!!」 
 
 
 
 
己の情けなさに、顔を両手の平で覆い、その場にしゃがみこんだ。
 
 
 
 

「思い出したって………全部かい!?」
 
 
 
 
言葉を発する事ができず、ただ頷く。
 
 
 
 
 
 
  

「俺は………………
今まで、何してたんだ………
 
とんだバカ野郎だ……………!!」 
 
 
 
 
 
 
 
 
ルカイン………………………
 
すまない………………!!

 
 
 
 
 
俺は、手早く支度を済ませた。 
 
 
 
 
 
「行かないと」
 
「ヴァン!どこに行くんだい?!」
 
 
 
 
 
心配そうな声色のルシアを不安にさせまいと、何とか笑顔を作って振り返る。

 
 
 
 
 
「俺をずっと………
待ってる、やつの所だ。

待ってくれてるかどうかは……分からんが」

 
 
 
彼女の目の前に右手を差し出す。
 
ルシアは、それを固く握り返してくれた。 
 
 
 
 
「今まで世話になった。
本当に、ありがとう」
 
「それはお互い様。
あたしも、あんたがいてくれて助かったよ。
ありがとう」
 
 
 
 
「じゃあ………」
 
 
 
 
旅立とうとした俺の肩に、後ろからポン、と手が置かれた。

 
 
 
 
 
「!」

「あたしも一緒に行くよ。
ちゃんと見届けないと、心配でね」
 
 
 

ニッと歯を見せて笑う彼女に、俺も笑い返す。
 
 
 
 
「行こう」 
 
「うん」 
 
 
 

 
数日分の食料とランタンを持って、小屋を後にした。

 
 


 
 
 
 
夜になると現れる目印を辿り、ひたすら進み続ける。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………よし!ここだ!」
 
 
 
 
ヴァンが指差したのは、人一人が入れる程の大きな穴。
 
ランタンの灯りだけを頼りに、真っ暗で狭い穴に入っていく。
 
 

 
ほふく前進でしばらく進むと、開けた場所に出た。 
  
人が住んでいた形跡がある。
 
 
 
ルシアが訝しげな表情で周りを見回す。
 
 
  
 
「吸血鬼はこんなとこに住んでるのかい。
大変だねぇ」
 
「なぁに、慣れれば快適だぞ」
 
 
「ここにヴァンが住んでたの?」
 
 

 
 
伏し目のヴァンは、寂しげな笑みを浮かべた。
 
  
 
 
 
 
「まぁ……
俺も住んでたんだが、ここは元々………
 
俺の命の恩人が、住んでいた場所なんだ」
  
 
 
 

そう答えると、いくつかある通路の内の一つを塞いでいる石板を、力ずくで何とかどかし―
その先を指差した。
 
 
  
 
 
 
 
「さぁ行こう、こっちだ」
 
 
 
 
ランタンの薄明かりが照らす地下通路を、彼に続いて歩く。
  
 
 
 
 
 
 
 
―少し進むと、すぐに分岐点がいくつも現れた。
 
が、ヴァンは迷うこと無く突き進む。 

  
 
 
 
「まるで迷路みたいだね………
道は覚えてるのかい」
 
「あぁ。
目的地は、俺が前に住んでいた所だからな。
覚えていて当然だ」
 
「すごい記憶力だね………」
 

 
 
 
 

 
時間の感覚が無いから、どれくらい掛かったかは分からないが………
 
しばらくすると、別の開けた場所に出た。
 
俺がずっと前に住んでいた部屋だ。
 
 
 
 

 
最近まで、誰かが住んでいたような形跡はあった。
 

だが、部屋のロウソクに一つも灯りがついてないって事は………
今は住んでないんだろう。
 
 
 
 
 
 

「………………………………」 
 
 
 
 
 
部屋を一巡し、椅子に座り込むヴァン。
 
 
 
 
 
「………大丈夫?」
 
 
「………………あぁ。
 
ただ………ここには、いない」
 
「あんたを待ってるってやつかい?」
 

 
   
無言で頷くヴァン。 
 
 
落ち込む彼を励まそうと、ルシアは極力明るい声で元気付けた。
  
 
 
 
「そりゃ、何百年も経ってたら[引っ越し]くらいするよ。
別の所にいると思うけどね」

 
「………………それもそうだな。
ルシア、ありがとう」
 
「ふふっ、あたしは何もしてないよ」 
 
  
 
 
 
少し元気を取り戻したヴァンが、椅子から立ち上がり、部屋のロウソクにランタンの火をともしていく。
 

明るくなった部屋の、それぞれの通路前の床を見回し始めた。
 
 
 


「ここからどの通路に進んだかさえ分かれば、新居の大体の見当は付くんだが………………?」
 
 
 
 
 
 
彼が、一つの通路前を見て、何かに気付く。
 
 
 
 
 
「これは…………………」
 
 
 
 
 

それは、侵入者用に昔張ってあった、鈴付きの罠の紐だった。
 
 
 
他の通路前の紐は、床に一の字の状態で置いてあるのに対し、その通路の紐だけ、奥の方に少し引きずられている。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
「………ははっ……………全く。
自分が罠に掛かってたら世話ないな」
 
「………………?」
 


 
一人思い出し笑いを浮かべるヴァンに、クエスチョンマークを浮かべるルシア。
 
 
 
 
 
「………あぁ、すまん。昔の事を思い出してな。
 
向かった通路はこっちだ、行こう」
 
 
 
 
 
 

そうして、また迷路のような地下通路を進み始めた。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 

一時間程歩いただろうか。
 
 
先の方に、明かりが見えてきた。
 
 
 
 
 

「………………!」
 
「誰か住んでるみたいだね」
 

 
 
 
心なしか、早足になるヴァン。
 
それに遅れないよう、ルシアも続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
辿り着いた先は、色とりどりの鮮やかなガラスランプが吊るされた部屋だった。

 
  
 
 
 
 
 
「わぁっ!?」 

「だ、誰っ!?」
 
 
 
部屋に入って早々、賑やかな声に出迎えられたヴァンとルシア。
 
  

声の主を見ると―
   
一人は、人間ではなく、子供のような姿で、空中に浮いている。

それを見たルシアが小声で「かわいい……」と呟いた。


よく見ると、部屋の隅に、腕を組んで立つ黒髪で長髪の………目付きの悪い男もいる。
   
 
後一人は……………赤い瞳に白い髪。

吸血鬼………か?
 
 
それとも―
 
もしかすると、この子はルカインに………
 
 
 
 
 
 

ヴァンが思考を巡らせていた、その時― 
  
部屋の奥から、見知った姿よりも成長した青年が現れた。
 
 
 
 
「どうしたんだ、ニア………………っ!!!」
 
 

 
 
 
 
ルカインにとって、久方ぶり、というには長過ぎる程の年月を経て現れた―
命の恩人。
 
 
 
 
 
衝撃のあまり、彼はその場に立ち尽くす。   
  
 
そして―
 
ルカインの目から、みるみるうちに涙が溢れ出した。
 
 
 
 
嗚咽で詰まりそうな喉から、彼は何とか声を絞り出す。
  
 

 
 
 
 
「…っ………………ヴァン……なの、か…………!?」
 
 
 
 
 

コクリ……と、頷くヴァン。  

 
 
 
 
 
ルカインは、ヴァンにヨロヨロと歩み寄り―
 
彼の両肩に手を置いて、俯いた。
  
 
床に、ポタリ、と涙が落ちる。
 

肩を大きく震わせて、泣き声混じりに言葉を紡いだ。
 
 
   
 
 
 

「どれだけ………っ、待ったか…………!!」
 
 
「………………………………すまん。
 
[迷子]になっててな」
 
 
 
 
照れ臭そうに頭を掻いて笑うヴァンに、涙を流すルカインは、いつもの彼とは違う、子供のような表情で笑った。
 
 
 
 

「一体、何百年………[迷子]してたんだよ」 
 
「はは、ホントにそうだな。
待たせちまって………すまん」
 
 
 
 
 
ヴァンの謝罪に、彼は首をフルフルと横に振り………
 
泣きながら笑みを浮かべた。
 
  
 
 
 
「でも―
 
あの時の約束、守ってくれた。
 
本当に………………
生きてて、良かった………ヴァン」
 
 
 
 
 
 
二人の数百年越しの再会に―
 
ニアは涙目で微笑み、
ランプの精霊ミコールは「良かった……良かったねぇ」と号泣し、
悪魔のヴォルドは関心が無いのか、無表情だ。
 
 
  
 
 
 
 
 
 
ひとしきり泣き、やっと涙がおさまったルカインが、ヴァンに問う。
 
 
 
 
 
「あの後………何があったんだ?」
 
 
 
 
問われたヴァンは、ニヤリと笑みを浮かべた。
 

  
 
「あいつら、「手負いの獣が一番手強い」って事を知らなかったみたいでな。
 
お前を逃がした後、隠れ家から森に戻って待ち伏せして………

油断してるところをやっつけていった。
 
 
その後―
 
その魔女狩りのやつら三人全員の血を、無くなるまで吸って、半吸血鬼になった。
 
それで、命は何とか取り留めたんだが………」
 
 
 
 
そこで、ヴァンはルシアの方を一度見て、話を続けた。
 
 
 
 
「弓矢に塗られていたのが「記憶障害」を引き起こす毒だったみたいでな。
 
記憶を無くして、長いこと森をさ迷ってたんだが、彼女―
ルシアが、調合してくれた薬を飲み続けて、記憶が戻ったんだ。
 
全部ルシアのおかげだ」
 
 
 

 
事の経緯を聞き終えたルカインは、ルシアの方に向き直った。
   
 
 
 
「本当に………ありがとうございます。
何とお礼を言ったらいいか………」
 
 
「ううん。
あたしはただ、ヴァンの記憶が戻る手助けをしただけだよ。
最後は、本人の力で記憶を呼び戻したんだ」
 
 
 
黒い瞳を耀かせて微笑むルシア。 
 
 
 
それに応えるように、ルカインはルシアに微笑み返した後―
 
ヴァンの顔をまじまじと見つめた。 
 
 
 
 
 
「どうしたんだ?ルカイン」 
 
「………半吸血鬼になったのに、ヴァンはなぜ歳を取っていないんだ?」 
 
 
「あぁ、それか。
 
―俺は、魔女狩りのやつら三人の血を吸っただろ?
三人の内二人は、血を吸う前に死んでたし、後の一人は、俺に血を吸い尽くされて死んだ。
 
極限まで吸血した相手が死んじまった時は………
自分が半吸血鬼になれても、寿命は長いままだ。
 
だが、相手が死なずに、お互い半吸血鬼になった時は、吸血鬼は自らの命を相手に半分渡す事になる。
 
相手が人間の場合に限り、だがな。 
 
だから人間と同じように、歳を取るようになるんだ。

………優しすぎるお前がその方法を選ぶ事は無いと思って、話さないでいた」
 
 
「……そうだったのか………」
 


 
フムフム、と頷くルカイン。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
と、ルシアが手をひらひらさせて、来た通路に向かう。
 
 


「あたしは帰るよ。
ヴァンと、あんた……ルカインの再会を見届けられたからね。

もし薬が必要だったら、またおいで」
 
 
 
 
ルシアの思わぬブラックジョークに、苦笑いを浮かべるヴァン。
 
 
 
「いや、俺はもう必要ないぞ(^-^;」
 
 

 
その息ぴったりの掛け合いに、笑いが起こる。
 
 
 
 
その中で、ルカインを見つめて涙ぐみ、微笑むニア。 
 
 
自分の命の恩人であるルカインの、さらに命の恩人が生きていた―
 
こんなに嬉しい事はない。
 

 
そうして、各々の命は、どこかで繋がっていくのだろう。
 
 
 
 
 
―季節は冬を迎えていたが、春のように温かな空気に包まれた、黒夢製作所だった。

 
 
 
 
 
 
 


 
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