No.2 [星の種]


No.2 [星の種]
¥222
SOLD OUT
まだ私が三歳の頃、亡くなった母方の祖父が家にやってきたのを見た。
身体は半透明だった。
「おかあさん、おじいさんがきたよ」
幼い私は、ありのままの事を言っただけだったのだが「そんな変な事言わないで」と、叱られたのだった。
それから度々、半透明の人間の形をしたものを見る事があった。
けど……
それを周りの者に言うと、おかしな顔をされ―
ただでさえ変わり者だった私は[変な奴]として、周囲から孤立していった。
それ以降、不思議なものが見えても何も言わなくなり、自分が見ているものは気のせいなのだと、強く言い聞かせた。
その内、本当にそれらは見えなくなり、私は安心すると共に……
何故か違和感を感じていた。
そして、夜空の星々を見上げては、懐かしさと共に何故か「帰りたい」と思う、変わった子供だった。
―それから、何年かの月日が流れ、成人した私は一人、故郷から離れた遠い街で暮らしていた。
他の人が見えていないものが見えていた事もすっかり忘れ、社会の一員として過ごす日々。
[変な奴]と思われないよう―
周りの人々から[普通]に見えるよう、気を遣っていた。
やはり何か違和感があった。
[何かが違う]―
それを誤魔化すかのように、様々な職を掛け持ちして、昼も夜もがむしゃらに働いた。
そして、大人としてそれなりに経験を積んだ頃……
それは突然復活した。
見えたのだ。
空が夕日に染まる中、現れたそれは―
人ではなく、光を放ち飛び回る何かだった。
不思議と恐怖心は沸かなかった。
吸い寄せられるように、その光を追う。
光はまるで呼ぶかのように、時折止まっては瞬いて、私が追い付くのを待っていた。
どれ程追いかけただろうか。
光は、路地裏の古い建物の中に入っていった。
「…………」
キィ…と、鉄製の門を開ける。
鍵は掛かっていなかったようだ。
年期の入った建物のドアも、何事もないかのように開いた。
私はその場で数十秒、勝手に上がるのは如何なものかと自問自答をしていたが……
どうしてもあの光の正体が気になり―
意を決して中に入った。
「……お邪魔します…………」
中は、何やら工場のようでいて少し違う―
黒の鉄骨とダークブラウンの木材がベースの、インダストリアルな造りだ。
「!」
上の方から物音が聞こえた。
二階からだ。
辺りを見渡し……
上へと続く螺旋階段を見つけ、息を潜めて登っていく。
登りきると、そこは書庫のようだった。
古書特有の古びた匂いがする。
―その時
すぐ横の、夕陽が差し込むガラス張りの広いサンルームに、人影が見えた。
静かに入室し、私は恐る恐る声を掛ける。
「………あっ、あの…
勝手にお邪魔して、すみません………
その……」
「ここに入っていく光るものを追いかけて来た」とは言えなかった。
きっとまたあの顔をされる。
―[変な奴]と思われる。
私が何と言葉を続けようか、戸惑っていると……
今度は、その人物が話し掛けてきた。
逆光で顔はよく見えないが―
夕陽に照らされた赤毛の髪が、とても鮮やかだ。
「君は、[光るもの]を追いかけて、ここに来たのではないかね?」
「!
な、何でそれを……」
予想外の言葉にたじろいだ。
と、その人物の横にあの光が突然現れた。
「あっ…!」
思わず指を指す。
「アタシは指を指されるのが嫌いなの。
やめてくれる?」
―喋った。光が。
「っ、す、すみません」
何だか分からなかったが反射的に謝る。
「ははは、混乱するのも無理はない!
私も初めはこれを幻覚だと思ったよ(^^)」
「[これ]呼ばわりしないで」
「あぁ、すまんすまん」
私はその出来事に頭が追い付かず、その人物と喋る光のやり取りを、ただ見つめていた。
日が暮れて薄暗くなったからだろう、赤毛の彼は、テーブル上の小さなランタンの灯りをつけた。
「私の名前はアーネストだ!よろしく頼む(^-^)/」
やけにフレンドリーなアーネストさんは、握手を求めてきた。
戸惑いながらもそれに応じる。
「私はノアといいます。よろしくお願いします…?」
何だこの流れは。
何をよろしくなのだろうか。
それよりも、あの光は…?
「あなたの事を教えてあげるわ」
突如光が側に飛んできて、話しかけてきた。
「彗星のようにこの星に来た、宇宙の魂の子―
新しい時代の到来を地球にもたらしてくれる、星の種。
あなたは、[スターシード]と呼ばれる魂を持つ者の一人よ」
「スター、シード…?」
初めて耳にするその単語に、クエスチョンマークしか出てこない。
私の戸惑う様子がおかしかったのか、光がクスッと笑った。
「……スターシード、他にもいろいろな名で呼ばれているけれど、本質は同じようなもの。
性別や職業、年齢、人種は様々だけど……
みんな自分なりの方法で、この地球という星を、より良い世界にする為に、他の惑星や宇宙から転生してきた魂よ。
勘違いしないで欲しいのは、別にスターシードだからって特別とかそんなのじゃないの。
ただそういう役割なだけって事。
スターシードでも、そうじゃなくても、一人一人がみんな特別なのよ。
今は世界中に、何十…何百万人のスターシードがいるわ」
「そ、そんなに…!?」
「ふふ、これからスターシードはまだまだ増えるわよ。
そしていつか、この世界の仕組みは根本から覆される事になる。
もちろん、いい意味でね」
クスクス、と光がまた笑った。
何やらスケールが大き過ぎて、SF映画のような途方もない話だ。
しかし何故か、心の奥にすんなりと入った。
「アタシは風の妖精、シルフ。よろしくね」
光にしか見えないが、彼女が優しく笑ったのが分かり、緊張が少し緩んだ。
「実は君に頼み事があって、シルフに連れてきてもらったのだ」
アーネストさんがニコニコしながら話し出す。
「君に[夢と現実の狭間にあるものを具現化]して欲しいのだよ」
「…………………っえ?」
一ミリも意味を理解できなかった。
きっと今自分は、呆気に取られて間抜けな顔をしているだろう。
「ちょっと博士!
ちゃんとイチから説明しなきゃ」
シルフが彼を[博士]と呼んだ。
「は、博士…?」
思わず聞き返す。
「ふふっ、そう。
こう見えて、ものすごい努力家で頭がいいのよ、この人。」
「はは、シルフが私を誉めるなんて珍しいなぁ!
まぁ気を遣わず君は、「アーニー」でも「あーちゃん」とでも、呼びやすい名で呼んでくれたまえ(о´∀`о)」
ノアはそのおどけた笑顔の裏に、本物の実力を持つ者のみが醸し出す自信を、直感で感じた。
本当に力がある者は、己の能力に確信を持っている為、わざわざ自分を大きく見せる必要がない。
それ故、謙虚な者が多いのだ。
「……年上の方を呼び捨てするのは気が引けるので、「博士」と呼ばせてもらいますね」
「あぁ、構わんよ~(^-^)/」
するとシルフが、可笑しそうにクスクスと笑う。
「年上って言っても、あなたよりかなり高齢だけどね」
「高齢…?」
彼はどう見ても、[高齢]という言葉が当てはまるような年齢には見えない。
意味が分からず「?」をたくさん浮かべている私の耳元で、シルフが博士の年齢を口にした。
「えぇっ!!?」
それを聞いて愕然とする。
普通の人間なら、とっくにこの世を去っているはずだ。
「ビックリでしょ?
博士は、アタシ達の住む[妖精界]に入り浸ってる内に、だんだん若返ったのよ」
「ははは、ついでに視力も回復して万々歳だ!」
「博士は、人間…なんですか?」
だんだんこの人物の正体が分からなくなってきた。
「見ての通り、正真正銘の人間だとも!」
そう言ってクルリと一周し、満面の笑みを見せる元高齢者。
「博士は元気ですね」
「あぁ!元気は大事だぞ~o(^o^)o」
どうやら悪い人ではなさそうだ。
「…それで、[夢と現実の…狭間に…]っていうのは、一体…?」
「それはアタシから説明するわ」
博士に任せていては話が進まない、とばかりにシルフが前に出た。
「人間やアタシ達みたいな、[自分]を持ってる存在は、生まれる前に、この世界で果たす[使命]をあらかじめ決めて生まれてくるの。
いわゆる人生のテーマね。
例えば、[周りの人々と調和して愛を広める]、[ただただ人生を楽しむ]のがテーマの子もいるわ。
自分のテーマに気付く子もいれば、一生気付かない子もいる。
でもね、使命は無理に探さなくてもいいの。
自分が心惹かれる方に進み続けたら、いつの間にか辿り着くから。」
「……」
何とか話に付いていこうと真剣になり、無言で話を聞き続けた。
「生まれる前の事なんて覚えてないと思うけど……
あなたが決めた今回の人生のテーマが、さっき言った[夢と現実の狭間にあるものを具現化する]なの。
その[狭間]は、アタシの住む世界や、別の者が住む世界の事を指してるのよ。
それを叶える為の能力も、あなたがまだ気付いていないだけで―
本当は備わっているわ」
―心当たりがあまり無い。
何をどうしたらいいのか。
それも分からない。
途方にくれていると、シルフが目の前に来て瞬く。
「なぁに、その顔。
なら証明してあげる」
そう言って、彼女は私の頬に手、らしきものを当てた。
すると―
「…!」
先程まで光だったシルフが、男性とも女性とも言えない、とても美しい人の姿に変わった。
背中には、大きな白い羽が生えている。
「これが、あなたのテーマを達成する為に生まれ持った能力―[具現化]よ」
この世のものとは思えない、透き通ったライトグリーンの瞳が、光を纏って優しく微笑む。
「まだあなたの能力は覚醒しきってないから、こうやって[夢と現実の狭間]の存在があなたに触れないと、こうはならないけどね。
覚醒すれば、触れなくても近くにいるだけで具現化できるわ」
と、博士が興奮ぎみに私の両手を取り上下に振る。
「すごい……すごいじゃないか君!!
これで私の願いも叶うというわけだ!」
「博士の、願い?」
首を傾げる私に、彼は今までとは違う、とても穏やかな微笑みを向けた。
「あぁ。
私は……私の見たあの美しい世界の存在を、少しでも皆に知ってもらいたいと思っている」
博士の瞳は、少年のように輝いていた。
「―だがしかし……
この頼みを引き受けてくれるかどうかは、君が決める事だ」
先程の様子とは打って変わって、真剣な眼差しがこちらを見据える。
「…………博士の見た世界を知っている訳ではないですが、私もその世界を広める力になりたいです。
キラキラしているあなたを見て……そう思いました」
「―そうかそうか!
あぁ、本当に良かった~(^^)
もし断られたら、ここで骨にでもなってしまうところだよ」
年齢としては骨になっているだけに、何とも笑いづらい冗談だ。
「何かを始めるには拠点が必要だろう?
この建物は、私が所有しているのだよ。
君が好きに使ってくれたまえ」
「い、いいんですか…?」
「あぁ(^^)」
ウィンクをして見せる博士。
―外はもうすっかり夜の帳が下りて、空にはたくさんの星が煌めいていた。
この地球に散らばる、スターシード達のように。
身体は半透明だった。
「おかあさん、おじいさんがきたよ」
幼い私は、ありのままの事を言っただけだったのだが「そんな変な事言わないで」と、叱られたのだった。
それから度々、半透明の人間の形をしたものを見る事があった。
けど……
それを周りの者に言うと、おかしな顔をされ―
ただでさえ変わり者だった私は[変な奴]として、周囲から孤立していった。
それ以降、不思議なものが見えても何も言わなくなり、自分が見ているものは気のせいなのだと、強く言い聞かせた。
その内、本当にそれらは見えなくなり、私は安心すると共に……
何故か違和感を感じていた。
そして、夜空の星々を見上げては、懐かしさと共に何故か「帰りたい」と思う、変わった子供だった。
―それから、何年かの月日が流れ、成人した私は一人、故郷から離れた遠い街で暮らしていた。
他の人が見えていないものが見えていた事もすっかり忘れ、社会の一員として過ごす日々。
[変な奴]と思われないよう―
周りの人々から[普通]に見えるよう、気を遣っていた。
やはり何か違和感があった。
[何かが違う]―
それを誤魔化すかのように、様々な職を掛け持ちして、昼も夜もがむしゃらに働いた。
そして、大人としてそれなりに経験を積んだ頃……
それは突然復活した。
見えたのだ。
空が夕日に染まる中、現れたそれは―
人ではなく、光を放ち飛び回る何かだった。
不思議と恐怖心は沸かなかった。
吸い寄せられるように、その光を追う。
光はまるで呼ぶかのように、時折止まっては瞬いて、私が追い付くのを待っていた。
どれ程追いかけただろうか。
光は、路地裏の古い建物の中に入っていった。
「…………」
キィ…と、鉄製の門を開ける。
鍵は掛かっていなかったようだ。
年期の入った建物のドアも、何事もないかのように開いた。
私はその場で数十秒、勝手に上がるのは如何なものかと自問自答をしていたが……
どうしてもあの光の正体が気になり―
意を決して中に入った。
「……お邪魔します…………」
中は、何やら工場のようでいて少し違う―
黒の鉄骨とダークブラウンの木材がベースの、インダストリアルな造りだ。
「!」
上の方から物音が聞こえた。
二階からだ。
辺りを見渡し……
上へと続く螺旋階段を見つけ、息を潜めて登っていく。
登りきると、そこは書庫のようだった。
古書特有の古びた匂いがする。
―その時
すぐ横の、夕陽が差し込むガラス張りの広いサンルームに、人影が見えた。
静かに入室し、私は恐る恐る声を掛ける。
「………あっ、あの…
勝手にお邪魔して、すみません………
その……」
「ここに入っていく光るものを追いかけて来た」とは言えなかった。
きっとまたあの顔をされる。
―[変な奴]と思われる。
私が何と言葉を続けようか、戸惑っていると……
今度は、その人物が話し掛けてきた。
逆光で顔はよく見えないが―
夕陽に照らされた赤毛の髪が、とても鮮やかだ。
「君は、[光るもの]を追いかけて、ここに来たのではないかね?」
「!
な、何でそれを……」
予想外の言葉にたじろいだ。
と、その人物の横にあの光が突然現れた。
「あっ…!」
思わず指を指す。
「アタシは指を指されるのが嫌いなの。
やめてくれる?」
―喋った。光が。
「っ、す、すみません」
何だか分からなかったが反射的に謝る。
「ははは、混乱するのも無理はない!
私も初めはこれを幻覚だと思ったよ(^^)」
「[これ]呼ばわりしないで」
「あぁ、すまんすまん」
私はその出来事に頭が追い付かず、その人物と喋る光のやり取りを、ただ見つめていた。
日が暮れて薄暗くなったからだろう、赤毛の彼は、テーブル上の小さなランタンの灯りをつけた。
「私の名前はアーネストだ!よろしく頼む(^-^)/」
やけにフレンドリーなアーネストさんは、握手を求めてきた。
戸惑いながらもそれに応じる。
「私はノアといいます。よろしくお願いします…?」
何だこの流れは。
何をよろしくなのだろうか。
それよりも、あの光は…?
「あなたの事を教えてあげるわ」
突如光が側に飛んできて、話しかけてきた。
「彗星のようにこの星に来た、宇宙の魂の子―
新しい時代の到来を地球にもたらしてくれる、星の種。
あなたは、[スターシード]と呼ばれる魂を持つ者の一人よ」
「スター、シード…?」
初めて耳にするその単語に、クエスチョンマークしか出てこない。
私の戸惑う様子がおかしかったのか、光がクスッと笑った。
「……スターシード、他にもいろいろな名で呼ばれているけれど、本質は同じようなもの。
性別や職業、年齢、人種は様々だけど……
みんな自分なりの方法で、この地球という星を、より良い世界にする為に、他の惑星や宇宙から転生してきた魂よ。
勘違いしないで欲しいのは、別にスターシードだからって特別とかそんなのじゃないの。
ただそういう役割なだけって事。
スターシードでも、そうじゃなくても、一人一人がみんな特別なのよ。
今は世界中に、何十…何百万人のスターシードがいるわ」
「そ、そんなに…!?」
「ふふ、これからスターシードはまだまだ増えるわよ。
そしていつか、この世界の仕組みは根本から覆される事になる。
もちろん、いい意味でね」
クスクス、と光がまた笑った。
何やらスケールが大き過ぎて、SF映画のような途方もない話だ。
しかし何故か、心の奥にすんなりと入った。
「アタシは風の妖精、シルフ。よろしくね」
光にしか見えないが、彼女が優しく笑ったのが分かり、緊張が少し緩んだ。
「実は君に頼み事があって、シルフに連れてきてもらったのだ」
アーネストさんがニコニコしながら話し出す。
「君に[夢と現実の狭間にあるものを具現化]して欲しいのだよ」
「…………………っえ?」
一ミリも意味を理解できなかった。
きっと今自分は、呆気に取られて間抜けな顔をしているだろう。
「ちょっと博士!
ちゃんとイチから説明しなきゃ」
シルフが彼を[博士]と呼んだ。
「は、博士…?」
思わず聞き返す。
「ふふっ、そう。
こう見えて、ものすごい努力家で頭がいいのよ、この人。」
「はは、シルフが私を誉めるなんて珍しいなぁ!
まぁ気を遣わず君は、「アーニー」でも「あーちゃん」とでも、呼びやすい名で呼んでくれたまえ(о´∀`о)」
ノアはそのおどけた笑顔の裏に、本物の実力を持つ者のみが醸し出す自信を、直感で感じた。
本当に力がある者は、己の能力に確信を持っている為、わざわざ自分を大きく見せる必要がない。
それ故、謙虚な者が多いのだ。
「……年上の方を呼び捨てするのは気が引けるので、「博士」と呼ばせてもらいますね」
「あぁ、構わんよ~(^-^)/」
するとシルフが、可笑しそうにクスクスと笑う。
「年上って言っても、あなたよりかなり高齢だけどね」
「高齢…?」
彼はどう見ても、[高齢]という言葉が当てはまるような年齢には見えない。
意味が分からず「?」をたくさん浮かべている私の耳元で、シルフが博士の年齢を口にした。
「えぇっ!!?」
それを聞いて愕然とする。
普通の人間なら、とっくにこの世を去っているはずだ。
「ビックリでしょ?
博士は、アタシ達の住む[妖精界]に入り浸ってる内に、だんだん若返ったのよ」
「ははは、ついでに視力も回復して万々歳だ!」
「博士は、人間…なんですか?」
だんだんこの人物の正体が分からなくなってきた。
「見ての通り、正真正銘の人間だとも!」
そう言ってクルリと一周し、満面の笑みを見せる元高齢者。
「博士は元気ですね」
「あぁ!元気は大事だぞ~o(^o^)o」
どうやら悪い人ではなさそうだ。
「…それで、[夢と現実の…狭間に…]っていうのは、一体…?」
「それはアタシから説明するわ」
博士に任せていては話が進まない、とばかりにシルフが前に出た。
「人間やアタシ達みたいな、[自分]を持ってる存在は、生まれる前に、この世界で果たす[使命]をあらかじめ決めて生まれてくるの。
いわゆる人生のテーマね。
例えば、[周りの人々と調和して愛を広める]、[ただただ人生を楽しむ]のがテーマの子もいるわ。
自分のテーマに気付く子もいれば、一生気付かない子もいる。
でもね、使命は無理に探さなくてもいいの。
自分が心惹かれる方に進み続けたら、いつの間にか辿り着くから。」
「……」
何とか話に付いていこうと真剣になり、無言で話を聞き続けた。
「生まれる前の事なんて覚えてないと思うけど……
あなたが決めた今回の人生のテーマが、さっき言った[夢と現実の狭間にあるものを具現化する]なの。
その[狭間]は、アタシの住む世界や、別の者が住む世界の事を指してるのよ。
それを叶える為の能力も、あなたがまだ気付いていないだけで―
本当は備わっているわ」
―心当たりがあまり無い。
何をどうしたらいいのか。
それも分からない。
途方にくれていると、シルフが目の前に来て瞬く。
「なぁに、その顔。
なら証明してあげる」
そう言って、彼女は私の頬に手、らしきものを当てた。
すると―
「…!」
先程まで光だったシルフが、男性とも女性とも言えない、とても美しい人の姿に変わった。
背中には、大きな白い羽が生えている。
「これが、あなたのテーマを達成する為に生まれ持った能力―[具現化]よ」
この世のものとは思えない、透き通ったライトグリーンの瞳が、光を纏って優しく微笑む。
「まだあなたの能力は覚醒しきってないから、こうやって[夢と現実の狭間]の存在があなたに触れないと、こうはならないけどね。
覚醒すれば、触れなくても近くにいるだけで具現化できるわ」
と、博士が興奮ぎみに私の両手を取り上下に振る。
「すごい……すごいじゃないか君!!
これで私の願いも叶うというわけだ!」
「博士の、願い?」
首を傾げる私に、彼は今までとは違う、とても穏やかな微笑みを向けた。
「あぁ。
私は……私の見たあの美しい世界の存在を、少しでも皆に知ってもらいたいと思っている」
博士の瞳は、少年のように輝いていた。
「―だがしかし……
この頼みを引き受けてくれるかどうかは、君が決める事だ」
先程の様子とは打って変わって、真剣な眼差しがこちらを見据える。
「…………博士の見た世界を知っている訳ではないですが、私もその世界を広める力になりたいです。
キラキラしているあなたを見て……そう思いました」
「―そうかそうか!
あぁ、本当に良かった~(^^)
もし断られたら、ここで骨にでもなってしまうところだよ」
年齢としては骨になっているだけに、何とも笑いづらい冗談だ。
「何かを始めるには拠点が必要だろう?
この建物は、私が所有しているのだよ。
君が好きに使ってくれたまえ」
「い、いいんですか…?」
「あぁ(^^)」
ウィンクをして見せる博士。
―外はもうすっかり夜の帳が下りて、空にはたくさんの星が煌めいていた。
この地球に散らばる、スターシード達のように。