Another story No.2 [ツインスター]

Another story No.2 [ツインスター]
¥222 SOLD OUT
 
 
思わぬ巡り合わせによって、半吸血鬼化を果たし、お互いが命の恩人となったニアとルカイン。
 
 
これは、彼らがその後、黒夢製作所を開くまでのお話―
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

  
長い歓びの抱擁の後、身体を離したルカインが、唐突に話し出す。
 
 
 
 
 
「君は……帰る場所は、あるのか?」
 
 
 
 
 
 
 
ニアは、少し考え込んだ後、皮肉じみた笑みを浮かべて肩をすくめて見せた。
 
 
 
「……無いな。
どのみちこんな見た目じゃ、もう人間社会で普通にやってけないだろうし」
 
 
「…………そうか」
 
 

その返答を聞いた彼は、ある事を提案する。
 
 
 
 
 
「吸血鬼は太陽光だけが弱点でね……
私は、地下にある居住区に住んでいる。
ここから少し遠いが、使えそうな別の居住区があるんだ。
そこならば、太陽の光に当たる心配もない。

もしよければ……そこに住まないか?」
 
 
「……いいの?」
 
「もちろん。
君を半吸血鬼にしてしまったのは私だ。
責任を取らせてくれ」
 
 
 
牙の生えた口元にニコリと笑みを浮かべて、首を傾げるルカイン。

そんな彼を見て、ニアはキョトンとした。
 
 
 
「……ルカインさぁ、お人好しって言われない?」
 
 
 
 
その問いに、彼は困ったような顔をして答える。
 
 
 
「ふむ………
言われるも何も、ここ何百年か一人で過ごしていたから……
それを指摘してくれる相手自体が、そもそも居なかったよ」
 
 
 
それを聞いたニアが、目を丸くして驚いた。
 
 
「はぁっ!?
じゃああんた、何百年も生きてるって事!?」
 
「あぁ。
吸血鬼の寿命はとても長いんだ。
しかし、半吸血鬼は人間とさほど変わらないようだから、やっと見た目も歳を重ねていける」
 
 
 

普通の人間からすれば、何百年も生きて歳をあまり取らないというのは羨ましいように思える。
 
―が、ルカインのように実際それを経験すると、普通の人間のように、年齢と共に自然に衰えていく事を望むようになるのかもしれない。 
 


 

微笑むルカインが続ける。
 
 
 
「何より嬉しいのは……
血を吸わずとも生きていける事だ。
…はは、何て素晴らしいんだろう!」

 
「え、血吸わなくてもいいの?
吸血鬼なのに?」
 
「あぁ、そうだ。
半吸血鬼は、人間と同じ食事で生きていけるんだよ」
 
「…………吸血鬼なのに……変なの」

 
 
 
 

 
そうこう話をしているうちに日が昇り、二人のいる木陰にも光が射し込み出す。
 
 
すると、ニアの皮膚が赤くなり始めた。
ルカインも同じような状態だ。
 
 
 
 
「ちょっ……何か、皮膚が痛い」
 
「いけない。
半吸血鬼は日光に耐性はあるが、あまり長時間太陽光に晒されると、皮膚が焼けただれてしまうんだ。

……これ以上日が高くなる前に、地下に移動した方がいいな」
 
  
 
そうして二人は木陰から木陰へと移動しながら、足早にルカインの居住区に繋がる穴へと向かった。
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 
―さほど離れていない場所だった為、そこへはすぐに辿り着いた。
 
  
 
 
「この穴の中だ」
 
 
ルカインが指し示すそれは、まるで大きなウサギ穴。
先が見えないこの穴に入ろうとする者は、まずいないだろう。 
 
それを見てニアはギョッとする。
  
 
 
 
「え……
この中に入るの?マジ?」
 
 

ルカインは言葉を返す代わりに、一つ大きく頷いて見せた。
 
 
 
「私が先に行くから、付いておいで」
 
 
そう言って彼は、コートの内側に持っていたランタンにマッチで火を付け、穴の中へと入っていった。
 
 
 
 
 
 
「うわ……土まみれになりそ…」 
 
 
このまま日光が降り注ぐ地上にいる訳にもいかず、渋々それに続く。


 

 
 
―暗く狭い穴の中を、ほふく前進でひたすら進み続ける。
 
もし閉所恐怖症であれば気が狂いそうな狭さだ。
 
 
 
 
 
 
と、前にいたルカインが視界から消え、灯りが見えた。
到着したようだ。
 
 
穴の中は、長い年月通路として使われ、土が幾度となく押し固められてきたからか……意外にも土まみれにはならなかった。
 

 

服に付いた乾いた土を払い、辺りを見渡す。
 
 
 
かなり古い書物や不可思議な品々が、所狭しと並んでいる。
 
電気が通っていないのか、灯りはすべてキャンドルだ。
 
  
 
 
 
 
「…………何か……
独特な趣味してるな、ルカイン」
 
 
 
「あぁ、いや………ここは―
 
以前、私の命の恩人が住んでいた居住区なんだ。
訳あって今は……私が使わせてもらっているが」
 
 
 

彼の悲しげな笑みに、ニアはあまり深く事情を聞いてはいけない気がして、口をつぐんだ。
 
 
その空気を察してか、ルカインは努めて明るい声で話し出す。
 
 

 
「それはそうと、君の居住区に案内しよう。
こっちだ」
 
 

 
彼はだいぶ年期の入った机の引き出しから、ボロボロの地図とランタンの燃料を持ち出し、いくつかある地下の通路の一つに進んだ。
 
その後にニアが続く。
 
 

と、何かが彼のつま先に引っ掛かり、「チリン」と音がした。



足元を見ると―
鈴が付いた紐が、通路前に伸ばして置かれている。



「?何これ」

「あぁ、それは元々、侵入者に気付く為の仕掛けなんだが………
今は必要なさそうだから、外して床に置いているんだ。
そのままでいいよ」

「ふ~ん………」



「侵入者」って………
こんなとこに侵入するやついるの?
と、こぼしながら、ニアは紐を横目に、ルカインに続いて進む。
 
 
 
 
 

 
二人は、話をしながら通路を歩き続けた。
 
 
ルカインは、今まで誰かと会話をする事がほぼ皆無だった為―
ニアのたわいもない話を、とても楽しそうに聞いている。
 
そしてニアも、久々の人との会話に嬉しそうだ。
 
 
 
 
 
時間を確認する術が無い為正確ではないが、小一時間は経っただろうか。
 
 
 
 

ニアの新居となる居住区に辿り着いた。
 
 
 
ここもかなり独特で、壁が様々な色や模様で彩られている。
 

天井から吊るされた、色とりどりの無数のガラスランプが、光を通して鮮やかな色彩を放つ。
 
個々が写し出した模様がそこかしこに重なる様は、まるで万華鏡のようだ。
  
 
 
 
 
 
と、ルカインがある異変に気付く。

 
 
 
「…………?
電気が通っているな」
 

「え?そんなの、当たり前じゃないの?」
 
 
 
 
首を傾げるニアに、ルカインが事情を説明する。
 
 


「この居住区は、真上に建物があってね。
そこを管理している人間は私達のような存在にも理解があって、何十年か前、ここにも電気を引かせてもらったんだ。
 

だが、十数年程前にその人物がいなくなり……
電気の供給が止まってからは、しばらくこの居住区には来ていなかったんだが―

もしかしたら、新たな所有者が、上の建物を使用しているのかもしれない」
 
 

 
 
ルカインは難しい顔で一人考え込む。
 
 

 
「無断で電気を使う訳にもいかないが、この姿で伺えば驚かせてしまうな。
しかし、建物の所有者に許可を取らなければ……」
 
 
 
 
 
彼の独り言のような言葉から事情を理解したニアが、いい事を思い付いたと言わんばかりに、ニヤリと笑った。
 
 
 
 
「要は、吸血鬼だってバレなきゃいいんだろ?
ならいい方法がある」
 

「何だとっ!?一体どんな方法なんだ!!」
 
 
 
驚いて目を見開くルカインがニアに詰め寄り、答えを求める。 
 
 
 
 
 
 
 
「見た目について何か聞かれたら……

 
「これはコスプレです」って言えばいい」
 


 
「………………こ…こす、ぷれ………?
何だ、それは」
 
 
 
 
 

初めて耳にする単語に、間の抜けた顔をするルカイン。

そんな彼の肩をポンポンと叩き、ニアは自信満々に頷いて見せた。
 
 
 
 
「とにかく!そう言い張れば大丈夫だから!」
 
 
「そ、そうなのか…?
 
うぅん、何だかよく分からないが……
君を信じよう」


 
 
その反応に、[きっとルカインはすぐ騙されるタイプだな……]と、ニアは内心不安に思った。
 
 
 
 
 
そんな目で見られているとも知らず、彼は近くの椅子に腰掛けて微笑む。
 
 
 

「では日が落ちた頃、上の建物に伺ってみようか」
 
「あぁ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
―その後、お互いの身の上話をしているうち、あっという間に時間は過ぎた。

 
 
 
 

 
おもむろにルカインが席を立ち、壁に掛けてある鍵を手に取った。
 
 

 
「……そろそろ日も暮れた頃だろう。
さぁ、行こうか」

 
 
 

 
 
彼に続いて居住区の奥に行くと、上へ続く石造りの階段があった。
 
 
 

「これが、居住区と地上を結ぶ階段だ」
 
「へぇ……また狭い穴を通んなきゃないのかと思った」
 
「あぁ。
他の居住区の出口はすべて入り口と同じ穴なんだが、ここだけは、上の理解ある前所有者のお陰で、出入りしやすい階段にできたのだよ」
 
 

そんな話をしながら階段を登っていくと、年期の入った鉄扉が頭上に現れた。
 
しっかりと南京錠が掛けてある。
 
 
 
ルカインが先程持ち出した鍵を使ってそれを解錠し、鉄扉を少しだけ持ち上げて、隙間から外の様子を伺う。
 
 
 


「…………大丈夫。ちょうど日が沈んだようだ」
 
 
彼はニアの方を振り返ってニコリと笑った。
 

 

「ルカインの体内時計バッチリだね」
 
「何百年も地下で生活しているから、自然と身に付いたんだよ」
 
 
 
ふふっ、と微笑みながら静かに鉄扉を押し開け、物音を立てないよう二人は地上に出た。
 
 
 
 
―目の前に古びた建物がある。
 
ここは、どうやらその敷地内の庭のようだ。
  
様々な花が美しく咲き誇り、淡い月の光に照らされて、幻想的な風景を作り出している。
 
 
 
辺りを見渡し、感心するルカイン。
 
 
 
 
「前に見た時は雑草が生い茂っていたんだが……
今の管理者は、庭もしっかり手入れしているようだな」

 
 
その場を後にし、建物の入り口へ向かう。
 
 
窓から明かりが漏れているという事は、やはり誰かがいるのだろう。
 
 

二人は玄関の前に並び、ルカインが、呼び鈴から垂れ下がる取っ手を引っ張り鳴らした。
この時代には珍しい、昔ながらのアイアンベルだ。
 
チリリン…と澄んだ音が響き渡る。

 

 
 
それを見ていた現代っ子のニアが、素朴な疑問を口にした。 

 
 
「こんな小さい音、中に聞こえるの?」
 
 
「ふふっ。
これはね、外の取っ手を引っ張ると、紐で繋がっている建物内の呼び鈴も鳴るようになっているんだよ」

「へぇ~」
 
 
 
ルカインから教えてもらったその仕組みに彼が感心していると、玄関の鉄扉がゆっくり開き―
性別不明の人物が顔を出した。 
 
 
 
 
「はい……っ!」
 
 
 
「えっ………!!?」
 
 
 
 
相手が二人の風貌に驚いたのは勿論だが、それよりも驚いていたのは、何故かニアだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………ノ………ノアっ!!?」
 
 
 
「……えっ………?
も、もしかして………
 
ニア!?」
 
 
 
 
 
 
事情が分からないルカインは、その様子を見守った。
 
 
―よく見るとこの二人、顔がよく似ている。
  
それに気付いた彼が問う。  
 
 
 
 
 
「もしかして君達は……双子、なのか?」
 
 
 
 
ニアに良く似た人物が頷いた。
 
 

「私は、この白夢製作所で所長を勤めている、ノアといいます。
ニアは、私の双子の兄弟なんです。

といっても……実家を出たきり会っていませんでしたが―
まさか、ここを訪ねてくるなんて……
 
でも…何でそんな見た目に……?!」
 
 
 
 
 
その疑問に、ルカインが手短に説明をする。
 


 
 
 

それを聞き終えたノアが、心配そうにニアを見つめた。
 

 
 
「大変だったね……ニア」
 
「まぁ、なかなかなもんだったよ」
 
 
「………久しぶり」
 
「……あぁ」 
 


お互い顔を見合わせて笑い合う。
 
顔の造りは同じなのに、雰囲気がとても対称的な二人だな、とルカインは思った。
 
 
 
 
ノアが扉を大きく開いて建物内を指し示す。


 
「とりあえず中に上がって」
 
 
 
 
 
ノアに促されて建物―製作所内に入ると、奥から謎の生物が二人現れた。
 
ルカインは特段反応を見せなかったが、ニアは先程にも増して声を上げて驚く。
 
 
 

「うわっ!何!?
ウサギとネコが歩いてる!!」 
 
「……失礼ですね」
 
「同感だ」
 
 

[ウサギ]と[ネコ]と呼ばれたその二人は明らかに不機嫌そうだ。
 
そんな二人を「まぁまぁ」となだめたノアが、ニアに向き直る。
 
 
 
 
「二人は、私の助手をしてくれてるイーユンとロカ」

 
そう言ってノアが彼らの紹介をした後、今度はニア達を助手二人に紹介する。
 
 
 
「彼はニア。
私の双子の兄弟だよ。

そしてこちらはルカインさん。
ニアの命の恩人なんだ」
 
 
 
 
「命の恩人」と言われ、照れ笑いを浮かべるルカイン。
 
 
 
「あぁ、いえ……
命を救われたのは、私も同じですよ。
ニアとの巡り合わせに感謝しています」

 
 
それを横で聞いていたニアは照れ臭いのか、そっぽを向いている。
  
 
 
 
 
 
 
と、製作所の玄関扉が勢いよく開いた。
 

その場の五人は一斉にそちらを振り向く。
 
 
 


「はっは~!元気かね、諸君………」
 
 

アーネスト博士だ。
側にはシルフもいる。

 
彼の目がニアの姿を捉え、そのままズンズンと近付いてきた。
 
 
 
 
「……ノアそっくりじゃないか!
もしや、双子かね?」
 
 
 
 
ノアが微笑んでその問いに答える。
 
 
 
「はい、彼はニアといいます。
隣の方はルカインさんです」
 

「そうかそうか!
私はアーネスト。
ノアの親友だ、よろしく頼む!
 
それから、隣の光っている彼女はシルフ。風の精だ」
 
 
 
 
ニカッと笑った博士は、右手を差し出しニアに握手を求めた。
 
 
彼はそれを不馴れな手付きで握り返す。
 
 
 

「よ、よろしく……」
 
 
 
 

個性的な人物が一度にたくさん現れ、混乱気味のニア。
 
 
 
 
 

と、博士が彼の隣のルカインに視線を移し、握手を交わした。
いつにも増して目がキラキラしている。

 
 
「その風貌……
君は、[吸血鬼]かな?」
 
「はい。
正確には、今は[半吸血鬼]ですが……」 
 
 
 
 
 
微笑むルカインをまじまじと見つめ、何度も大きく頷く博士。
  
 
 
「話に聞いてはいたが……
本物の吸血鬼に会える日が来るとは。
いやぁ~、長生きはするものだな!」
 
 
 
 
 
それを聞いたニアが、博士に訝しげな視線を送る。
  
 
 
「は?あんた、そんなに年取ってないだろ」
 
 
 
 
そんな様子の彼に、いつもの如くシルフが耳元で博士の年齢を教えると、ニアは驚きのあまり大声をあげた。

 
 
「はぁっ!!?
何なの、人間じゃないの?!」
 
「いやいや、私は普通の人間だよ」
 
 
 
彼はいたって真面目に返答したようだが、どう考えても普通ではない程の歳を重ねているのだ。
 
 

 
 
 
 
と、博士はある事が疑問に浮かんだ。
  
 
 
 
「しかしニア、君のその風貌は……?」
 
「あぁ、これは私のせいで『それは僕が話すよ』 
 
 
説明しようとするルカインを手で制し、ニアがその経緯を話した。
 


 
 
 
 

―事情を話終えたニアは、ため息を一つついて付け加える。
 
 

 
「悪魔に取り憑かれたのは、その……
僕にもその要素があったからじゃないかって………
反省は、ちょっとしてる」
 
 
 

それを聞いた博士は、ニアの頭をその大きな手でわしわしと撫でた。
 
 

「なっ…やめろよ!」
 
「偉いぞ~!
それに気付けただけでも大きな収穫だ(^-^)/」
 
 
 
彼はニッと笑い話を続ける。 
 
 
 
 
「自分の中にある要素が、同じような出来事を引き付けてしまう事は多々ある。
心を美しく平和な世界に保つのは大切だよ。
 
ただ、勘違いしてはいけないのは、怒りなどの感情を押し込めろという意味ではないという事だ。
 
負の感情というのは、感じないようにしようと心の底に沈めてしまうと、一度は無くなったように見えても―
底で腐って、悪臭を放つかの如く、いつか別の形で出てくる。
 
それ故、その時々の己の感情をそのまま感じてみるのは、大事な事なのだよ。

すべての感情は、それ自体を味わう為にあるものでもあるからだ。

怒りや悲しみなどを感じている「自分」を受け入れ、俯瞰して冷静に眺め……
その感情に向き合った上で、それを昇華して別の物事への糧にしたり、あるいは手放していく必要はあるがな。
 
…………そうだな、この中でそれが一番うまくできているのは―」

 
 
 

そう言って皆にぐるりと視線を向けた博士の目が、ある人物に止まった。
 

 
 
「ロカ君かもしれないな」 
 
「…………俺?」
 
 
 
意外だ、とでも言いたげな表情で、彼は博士を見つめ返す。
 
 
 

「君は、自分の気持ちにとても素直なように見えるよ。

今思う事、感じる事を、目を背けずに受け入れ、素直に言葉にしたり、その場でじっくり考える……
案外人間はそれができなかったりする」
 
 
「………………」


 
―人間でない俺には分からないが、今思う事から目を背けないのは、別に当たり前だと思うんだが……

人間の心っていろいろ複雑なんだな。と、ロカは思い、難しい顔をして考え込む。


 
 
その様子を見て微笑む博士の横にいたシルフが、ニアの方に飛んできた。

 
 
 
 
「ニア、聞いて。
あなたは―
 
[光と闇、善と悪―対なるものを具現化する]人生の使命―テーマを持っているわ。
その為にも、今までの経験が必要だったの」
 
 
 
 
 
突然自分の[人生の使命]というものを知らされ、眉をひそめて目の前のシルフを見るニア。
 
 

「…………何それ。
人生にテーマなんてあんの?」
 
 
「そうよ。
テーマは人それぞれだけどね。

[人生を楽しむ]っていうテーマは、みんな共通だけど ……」

 
 
 
 
 
そこで彼女は、並んで話を聞いていたノアとニアを見て、一際大きく瞬いた。
  
  
 

 
 
「驚いた……
 
あなたたち、[ツインスター]ね」  

 
 
「「………………?」」
 
 
 
 
 
それを聞いた二人は、同じ顔でポカンとして彼女を見た。
  
  
その姿が面白かったのか、シルフはクスクスと笑って話を続ける。 
 
 
 
 
「―ツインスターは、[魂の双子]。
両極端な性質を持つ、対の魂なの。
 
双子でツインスターは珍しいかもね」
 

 
 
 
そこで、シルフの横で静かにやり取りを聞いていた博士が、唐突に話に割って入る。 
 

 
「前々から思っていたのだが……
シルフ、君は何故人間を見ただけで、そんな事まで分かるのだ?」
 
 
「それは…………
ふふっ、秘密よ」
 
 
 

 

今度は、その博士を見つめていたノアが、彼に質問する。
 

 
「そういう博士も、何故深い話をいろいろ知っているんですか?」 
 
 
 
 
ノアのその質問について、当の本人ではなく、シルフから答えが返ってきた。
 
 
 
「彼、実はね……
 
ずっと前に一回死にかけて[臨死体験]、っていうのかしら?
それを経験した時に、[あっち]のお偉いさんにみっちり[個人指導]を受けたらしいのよ。

生き返ったらだいたい忘れちゃうのに、それが記憶に残ってるなんて……
ホントに変わってるわ」


 
シルフは何やら楽しそうだ。
 
 
しかしまさかの情報に、ノアの方は愕然とする。

 
 
「し、死にかけ……っ!?
博士、一体どういう…」 
 
「あ~……
まぁ、その話はもういいじゃないか」
 
 
 
 
当時をあまり思い出したくないのか、博士はそれ以上話を広げようとはせず、ヘラヘラと笑って手を振り誤魔化した。

 
 
彼のその様子を見て肩をすくめたような雰囲気のシルフが、話を本題に戻す。 
 
 

 

  
「あなた達はまるで真逆の存在―
昼と夜、光と闇を現しているようだわ。
それが示すのは……

「対立する二極のものが両立する、第三の極」「二極性の融合」よ」
 
 
「「………………………??」」
 

 
 
 
「ますます話が分からない」と顔を見合わせるノアとニア。
 
 
 
 
 
二人のその様子に、博士が分かりやすく例え話を始める。
 
 
 
 
「例えば、二人の人物が背中合わせに立っていれば、見ている方向は180度真逆だろう。
そうすると、お互いの左右も逆転する。
相手に取っての右が、自分に取っての左、というようにな。
立場が変われば、同じ物事も真逆の解釈になりえるという事だ。
 
もちろん、逆方向を向いているのだから見える景色も全く違う。
自らの視点を変えて振り返らなければ、相手の見ている景色すら見る事もないだろう。
 
そのどちらも知る為には、光と闇、表と裏―
両方の立場を経験する必要がある。
 
  
実はそうやってこの人間の世界は、皆、自分が見たいものを見ているのだよ。
それを意識している、していないに関わらずだ。
 
だからこそ、己の周りの世界を形作っているのは、紛れもなく自分自身が日々発する想い、言葉だと言う事を、真の意味で理解するべきだろうな。

 
―そして、その光と闇の背中合わせの中心が、シルフの言う[第三の極]であり、[二極性が融合した部分]というわけだ。
それは、どちらの立場をも「良い」「悪い」で判断しない―
中道、ニュートラルな視点とも言える。

それが善と悪、二極性を越えた先にある、すべての存在が目指す所なのだよ」
 
 
 
 
 
 
難しい謎かけを聞かされたようで、面食らい、その場にただ立ち尽くす二人。
  
 
 
ニアが大きなため息をつく。
  
 

 
「……はぁ、意味分かんない」
 
 
 
 
そんな様子の彼を、博士が優しく微笑んで見つめた。
  
 
 
「今は分からなくてもいい。
ただ、心のどこかに留めていてくれさえすればな」
 
 

 
 
 
 
 
ノアは困った表情を浮かべ、率直な疑問を投げ掛けた。
 
  
 
「私もよく分からないんですが……
結局、何が最終的なゴールなんでしょうか?」
 
 
 
 
 
真っ直ぐなノアの瞳を見つめ返し、彼はまた一つ頷いて話し出した。
 
 
  
 
「君達や私、皆それぞれの人生の使命やカルマは違えど、人類の最終的な目的は一つ。
それは―
ありのままのお互いの個を認め合う事で[調和]し……
[愛]の存在に戻る事だ」
 
 
 
 

話を聞いていたニアは、ある単語が引っ掛かった。  
 
 
 
「……何?[カルマ]って」
 
 
 
 
「よくぞ聞いてくれた」とばかりに、大きく頷く博士。
  
 

  
「カルマはな、簡単に言うと「自分の行いや想いは、いつか自分に返ってくる」というものだよ。

[業]とも言われるせいか、何か罰や試練のように捉えられる事もあるが……
本当は、カルマというのは、先程言った目的を達成する気付きを得たり、課題を解消する為に現れる過程―サインに過ぎない。
 
そしてそれはネガティブな想いだけでなく、ポジティブな想いにも当てはまる法則だ。
だからこそ、日々自分が放つ想いが大事なのだよ。

[愛]には[愛]、[憎しみ]には[憎しみ]……
タイムラグはあるが、それ相応のものが、いつか姿形を変えて返ってくる。

ただ、自分の身に降りかかる出来事を、何でもかんでもすべてカルマや運命のせいにするのは良くないから、気をつけたまえ。


まぁ、経験するものは人それぞれだが……
結局の所、皆が目指すものは同じなのだよ。
 
愛だの何だのというと、胡散臭い宗教のようだし、言葉として表した時のチープさは否めない。
愛を語るのは恥ずかしい事だと拒否したり、
「そんなものは綺麗事だ」と、バカにしたりする者もいるだろう。

しかし、誰が何と言おうと……
行き着く先は、愛がすべてなのだ。
それは、この世界、この宇宙で最も強い力であり、システムの動力源とも言える。

 
分かっていると思うが、この場合の[愛]とは、執着から来るものや、一個人に向けられるようなものではなく……
もっと広い意味での[愛]の事だ。
すべての存在や物事に向けられるような、な」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そこで、真剣な表情だった博士は、一気に破顔してニカッと笑った。
 
 
 
「なぁ~んて、長々と年寄りの説教臭くなってしまったな。すまん(о´∀`о)」
 
 

 
難しい長話を聞かされげんなりしていたニアが、ニヒルな笑いを浮かべ、すかさず嫌味を返す。 
 
 
 
「ま、じぃさんだから仕方ない」
 
「じっ…!
爺さんとは何だね!コラ~っ!!」
 

 
そう言ってニアを追いかける博士は、怒っているというより何だか楽しそうだ。
 


 
 

それを優しい眼差しで見ていたルカインが、独り言のようにポツリと言う。
 
 
 

「本当に……廻り合わせだな」
 
 
 
 
 
 
 
逃げ回っていたニアの首根っこを捕まえた博士が、改めて彼に向き合って問う。
 
 

 
「……ニア、君はシルフの言っていた[具現化]―
やってみるつもりは、あるかね?
 
もちろん、それを決めるのは君次第だ」
 
 
 
 

彼の真剣な目を見つめ返し、ニアが口を開いた。
  
  
 
「……………やってみるよ。
できるかどうかは、分かんないけど」
 
 
「そうか!良かった!
大丈夫、やってみれば何とかなるものだ!
私で良ければいつでも力になるぞ」
 
 
 
 
ニアの決心に、ルカインも頷いて見せる。 
 
 
 
「私も―
ニアの助手として、彼を側で支えていこうと思います」

 
「…………ありがとう、ルカイン」

 
 
本当に嬉しかったのだろう。
ニヒルな笑みとは違う、はにかみ笑いをするニア。
 
 

その暖かい雰囲気が伝染して、その場にいた皆が優しい笑みを浮かべていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―その後、ニアは白夢製作所の地下で[黒夢製作所]を開く事となる。
 
 
 
ノアとニア―
 
対称的な二人の作り出す世界が交わる時……
シルフの言う[第三の極]―[二極性の融合]が、具現化するのかも知れない。
 

 
 
 
 
 


 



 
再入荷通知を希望する

再入荷のお知らせを希望する

年齢確認

再入荷されましたら、登録したメールアドレス宛にお知らせします。

メールアドレス

折返しのメールが受信できるように、ドメイン指定受信で「thebase.in」と「gmail.com」を許可するように設定してください。

再入荷のお知らせを希望する

再入荷のお知らせを受け付けました。

ご記入いただいたメールアドレス宛に確認メールをお送りしておりますので、ご確認ください。
メールが届いていない場合は、迷惑メールフォルダをご確認ください。
通知受信時に、メールサーバー容量がオーバーしているなどの理由で受信できない場合がございます。ご確認ください。

折返しのメールが受信できるように、ドメイン指定受信で「thebase.in」と「gmail.com」を許可するように設定してください。

※こちらの価格には消費税が含まれています。

※別途送料がかかります。送料を確認する

送料・配送方法について

この商品の送料・配送方法は下記のとおりです。

  • ヤマト宅急便L

    ヤマト宅急便の80サイズです。

    送料は地域により異なります

    • 北海道

      ¥2,200

    • 東北
      青森県

      ¥1,610

      岩手県

      ¥1,610

      宮城県

      ¥1,480

      秋田県

      ¥1,610

      山形県

      ¥1,480

      福島県

      ¥1,480

    • 関東
      茨城県, 栃木県, 群馬県, 埼玉県,
      千葉県, 東京都, 神奈川県, 山梨県

      ¥1,350

    • 信越
      新潟県, 長野県

      ¥1,350

    • 北陸
      富山県, 石川県, 福井県

      ¥1,230

    • 東海
      岐阜県, 静岡県, 愛知県, 三重県

      ¥1,230

    • 近畿
      滋賀県, 京都府, 大阪府, 兵庫県,
      奈良県, 和歌山県

      ¥1,230

    • 中国
      鳥取県, 島根県, 岡山県, 広島県, 山口県

      ¥1,230

    • 四国
      徳島県, 香川県, 愛媛県, 高知県

      ¥1,230

    • 九州
      福岡県, 佐賀県, 長崎県, 熊本県,
      大分県, 宮崎県, 鹿児島県

      ¥1,350

    • 沖縄

      ¥2,070

ショップの評価

通報する

・Other・

E-mail:starseedworks@gmail.com