No.11 [懺悔]

No.11 [懺悔]
¥1,111 SOLD OUT
 
 


私は幼い頃、何処にでもいるような普通の子供だった。
 
 
ある出来事が…起こるまでは―
 

 

 
 


秋の陽射しが降り注ぐその日、愛犬のエリオットを連れて森に訪れていた。
 
彼とは物心付いた頃からずっと一緒で、親友のような存在。
 
 
その広い森は家の裏手にあり、11歳とまだまだ子供の私が、いつも遊んでいる場所だった―
 
 




 
 
 
  

 
 
 
「いくぞっ、エリオット!」
 
 
 
僕が彫って作った木のオモチャを思い切り投げ、それをエリオットが取りに行く。
僕と彼の定番の遊びだ。
 
 
 
 
 

少しして、オモチャを咥えたエリオットが、千切れんばかりに尻尾を振りながら戻ってきた。
 
 
それを受け取り、わしわしと思いっきり撫でてやる。
 
 

 
 
「よぉし!もう一回だ!」
 
 
 

そう言ってもう一度オモチャを投げようとした時、後ろからパキッ、と音がした。
 
 
 
 
 
 
 
 

―振り向くと、そこには巨大な熊がいた。
 
 
 
 

「あ……っ」
 
 
 
 
既に逃げ切れない距離。
 
僕は、瞬間的に死を覚悟した。
 
 


 
 

と、僕の横をものすごい勢いで何かが走り抜けて熊に向かっていった。
 
エリオットだ。
 
 
 

「っ!行っちゃダメだ!!」
 
 
 
 
叫ぶ声を無視して、彼は自分の何倍もある獰猛な熊に勇敢に立ち向かう。
 
 
僕は恐怖のあまり、その場から動けなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 

しばらく激しい攻防が続いたが、最終的にエリオットの気迫に負けたのか、熊はその巨体を揺らしながら、すごすごと森の奥へ消えていった。
 
 
 
 
 
やっと動くようになった足で、彼の元へ駆け寄る。
 
 
 
 

 
「エリオットっ!!」
 
 
 

 
鋭い爪に引き裂かれたその身体は、ズタズタに傷付いていた。

大量の血が滴り落ちている。

 
 
―きっと、彼は、もう……
 

 
 
 
 
 
 

弱って力が抜けていくエリオットを、そっと抱き抱える。

 
 
 
 
 
 
 
 

 

「…………僕の……

僕の、せいだ……っ」
 
 
 
 
「……………クゥ…ン」
 
 
 
 
彼は閉じかけた目で僕を見て、微かな声を上げた。
 
 
 
 
 
 




「ごめ………
ごめ、ん……………っ!!
 
ごめん…ね……」
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
そしてエリオットは、僕の腕の中で、静かに息絶えた。


 
 
 
 
 
 
 

「…っう、…うぐっ………」
 
 
 
 
 
 
動かなくなったその身体を、強く抱き締める。
 
 


 
 
 
 
 
 
 

 
 
―目の前に広がる鮮血。
 
 
 
 
僕の中に、今までに感じた事のない感覚が沸き上がる。

 
……何だ、この感じ―
 
 
 
 
 
 
親友同然の彼を失って悲しいはず……なのに…
 

僕の口は無意識に、その血に吸い寄せられる。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
―気が付くと、日が落ち、辺りは薄闇に包まれていた。
 
 
 
 
 
 

視界いっぱいに、赤いものが広がっている。
 
 
―血に染まった……エリオットの毛だ。
 
 
  
 
 
口の中で、鉄のような味がする。
 
 
 
 
 
 
 


「………………え……っ」
 

 

 
 
 
 
 
 
 
手で口を拭うと、ベットリとした赤。
 
 
 
 
エリオットの身体には、噛み付かれたような痕が残っていた。
 
 
 
 
 
 
 

何で……
 
 
どういう、事………?
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
訳も分からず、血まみれのまま、エリオットの亡骸をただただ見つめる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―と、遠くの方から僕の名を呼ぶ声がした。
 
 
 
 
「ルカイン!どこにいるのーっ!」
 

 

 
母さんだ。
 
ランタンの灯りがチラチラと光っている。
 
 
 
 
 


「か…母、さん……っ」
 
 
 
乾いた喉から何とか振り絞った声は届いたようで、程なくして母さんが座り込む僕を見つけた。
 


「ルカイ……っ!」
 
 
 
僕を見た母は絶句した。
 
 
 
 
 

「母さん……僕っ」
 
 
その言葉を遮るように、強く抱き締められる。


 
 
 
 
「…………何があったか、話して……?」
 
 

僕を抱き締める母さんの手は、震えていた。

 
 
 

 
 
掠れた声で、僕はゆっくりと話し出す。
 

 
 
熊に遭遇して襲われそうになったのを、エリオットが身を挺して助けてくれた事。

そのせいで、彼が死んでしまった事。
 
 

―僕が、エリオットの……
血を、無意識に口にした事も。
 

 
 
 
 
僕を見つめ、静かに話を聞いていた母さんが言った。
 
 




 
 
 
 
「……あなたの父親は……………
 
吸血鬼だったの」
 

「!!」

 
「でも、まさか……
子供に…遺伝するなんて………っ」
 
 
 
 
 
 
―今この時、吸血鬼というものが本当に存在している事を、初めて知った。
 
ましてや、それが自分の父親だなんて……

 
 
 
 
僕が物心ついた頃には、父さんはいなかった。
 
「父さんは病気で死んでしまったの」としか、聞かされていなかったのだ。 

 
 
 
 


―僕には、吸血鬼の血が流れているというのか。
 


衝撃的な事が一度に起こり、思考が追い付いてこない。 
 
 
 
 
 

 
「………………」
 

「…………エリオットに、お墓を作ってあげましょう」
 
 

母さんは、呆然とする僕の頭を優しく撫でた。

 


 


 
 
ランタンと月明かりを頼りに、木々の間、土の柔らかそうな所を見つけ、母さんと一緒に穴を掘った。
 
 
 
 

その中に、愛犬の亡骸をそっと横たわらせ、頭を撫でる。

 
 
 
 

「エリオット………っ…」
 
 
 
今になって涙が溢れてきた。
 
 
 




泣きながら、冷たくなった彼の身体に土をかけていく。
 

そしてその上に、彼のお気に入りだった木のオモチャを挿した。
  






 

 
「………………」
 
 
 

 

その簡素な墓を、しばらく見つめる。
 
 
 
そんな僕の背中にそっと手を添え、母さんも涙を流していた。
 

 

 
「この子は、命懸けであなたを守ったのよ。

―本当に、ありがとう………エリオット」
 
 
「エリオット……ありがとう………

ごめん…………っ」
 
 
 






僕がひとしきり泣いて落ち着いた後、母さんと一緒に、息を潜めて家に戻った。 
 


 

 

 



―その時代、各地で[魔女狩り]が行われていた。


黒毛のペットを飼っていたりするだけで、使い魔を持つ[魔女]と疑われるのは勿論―
少しでもおかしな様子があれば、悪意ある隣人に「あいつは魔女だ」と告げ口され、火あぶりにされる事もあったのだ。
  
 
そうして、罪の無い人々の、たくさんの命が失われた。
 
神の名の元に、[悪魔]という、存在しているかすら分からないものを滅ぼすという目的を掲げた、偽りの代行者達の手によって―
 
 
独りよがりの[善]や[正義]を振りかざす狂信的な人間のする事ほど、恐ろしいものは無い。
 
 
皆が疑心暗鬼になり、怯えていた。


 
こんな血まみれの姿など見られようものなら、すぐに標的にされるだろう。
 
 

 
 
 



―幸いにも、僕達は誰にも見られる事なく家に辿り着いた。
 


 
 
 



水で濡らした布で、僕の口や手を拭いてくれる母さんを、ただぼーっと見つめ、人形のように椅子に座っていた。
 
 

その視線に気付いた母さんが、小さな声で話し始めた。
 
 
 
 

「…何から、話そうか…………」
 
 
 
 
 
 
少し考え詰めた後、言葉を続ける。
 
 
 

「………何が原因かは、分からないけど…
 
大量の血を見たのがきっかけで、ルカイン……あなたの中の、吸血鬼の本能が目覚めたのかもしれない。

もし、そうだとしたら…………」
 
 
 
 
 
 

そこで一旦話は途切れ、重い沈黙が続く。
 
 
 
 
 
 
 

 
「…………あなたは、日の光を浴びると……
 
死んでしまう」
 
 
「………!」
 
 
 
 


すると、母さんは僕の目の前にパンを差し出した。
 
 
「食べてみて」
 
 
「…………」
 
 
 
僕は受け取ったそれを少し齧る。
 
 
 
 
 
「…………食べた、けど…?」
 

 
そう言った直後、猛烈な吐き気に襲われた。
 
 

「……っう!」

 
堪らず床に吐いてしまう。
 
 


その様子を心配そうに見つめていた母さんが、微かな声で呟く。
  
 


「…………やっぱり」

 

悲しげな眼差しが、こちらに向けられていた。
 
 

 
「完全に吸血鬼になってる」
 
「………っ」
 
 
「さっき吐いたのは、身体が血液以外のものを栄養源として受け入れなくなって……拒否反応が出たのよ」

 

 
―それはつまり、生き物の血を飲まないと、生きていけないという事。
 
 
背筋が冷たくなるのを感じた。
 
 

 

 

「……と……父さんは……どう、してたの」
 
 
「……父さんは、森で死んだばかりの動物を探して、その血を飲むようにしていたけど……
 
それが見つからない時は、仕方なく……というよりも、しばらく血を飲まないでいると、その内無意識に血を求めて、気付いたら近くの動物を捕まえて……
それが死ぬまで血を吸っていた」

 
 
 
……僕がエリオットの血を吸った時に、似ている。
 
頭がクラクラしてきた。
 
 

 

 
「でも、父さんは人間の血は一度も吸わなかった」
 
「……動物が死ぬまで血を吸ってたんでしょ」

「仕方なかったのよ」
 
 
「…………僕はそうまでして生きたくない」
 
 

パンッ!
 
 
目を見開いた母さんは、僕の頬を平手打ちした。
 
 
 
 
 
 


「…………お願いだから……
そんな悲しい事……言わないで」
 
 
優しく抱き締められる。
母さんの匂いがした。
 
 
 

 
「父さん…オスカーは、ルカインが赤ん坊の頃に……
死んだの。

彼は、最後に言ってた。
「お前達を愛してる。俺の分まで生きてくれ」って………っ」
 
 

その当時を思い出しているのだろう。
母さんは、今までに見た事のない程悲しい顔で、涙を流していた。
 
 

 
 
 
 

 
[自分が吸血鬼の血を引いている]―
 
突然突きつけられた事実。
 
 
 
その後、それを身をもって知る事となる。 
 
 
 
 
 
 
 


 
僕の身体は、日に日に異様な変化を見せた。
 
 
元々焦げ茶色だった髪が白に近い色になり、茶色の瞳は、鮮血のような赤になっていった。
 
そして犬歯は抜け落ち、代わりに鋭い牙に生え変わった。
 
さらには耳の先が尖り……
まるで、悪魔のような風貌だ。
 
 
こんな姿で外を出歩く訳にもいかず、フード付きのローブを纏って目深にそれを被り、日が昇っている間は、家の奥の日が差さない場所で過ごす―
そんな日々が続いた。
 
 

 
 

 
 
 
 

 
 
 
 
 
その日の夜、いつものように人目を忍んで、一人夜の森に来ていた。
 
目的は……死んで間もない動物を探す事。
 
 
母さんには、付いて来ないようにお願いしている。
僕が血をすする姿なんて、見られたくないから……
 

 
小さなランタンの灯りを頼りに、できるだけ静かに歩く。
 
 


しかし、そんなものが早々見つかるはずもなく……

気が付けば、息絶えて間もない、生暖かい小動物の血をすすっているのがほとんどだった。
 
 
その度に、僕は自分が殺めてしまった動物のお墓を作り、天国に昇れるようにと祈りを捧げた。
 
 
 
 
 

 
そして今日も、気付けば先程まで生きていた動物の血が、目の前に広がっていた。
 
 
地面にその亡骸を横たわらせて、それを見つめる。
 
 
 
 


 

 
―ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。
 
 
暗雲で月の見えない夜空を見上げ、それを顔に受ける。
 
 
 


 
……これから一体、いくつの墓を作っていくのだろうか。
 
 
それを考えるだけで、生きる事に罪悪感を感じた。

 
 
 
 

 
「…………ずっと、こんな事を続けなきゃ…ならないの……?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


とその時、後ろでガサッ、と音がした。
 


熊かと思い素早く振り返ると、そこには男がいた。
 

ランタンの灯りに照らされて、血にまみれた僕の異様な姿が晒される。
 
 



「……あ…………あっ…悪魔!!
うわああぁっ!!」
 
 
叫びながら村の方に走って逃げていった。
 
 
 


まさか、夜の森で人に遭遇するとは考えてもみなかった僕は、唖然としていたが―
自らが置かれた状況に気付き、血の気が引いていく。
 
 
あの男が「森に悪魔がいた」と話をすれば、きっとすぐに[魔女狩り]の奴らがやってくる。
 
 
 
先程まで生きる事に罪悪感を感じていたというのに、いざ間近に命の危機が迫ると「死にたくない」と思った。
 
 
 
 

 
あの様子だと、幸い、母さんの子供だとは気付かれていない。

でも今、家に戻って気付かれてしまえば、母さんは「悪魔の母親」として、間違いなく僕と共に火あぶりにされるだろう。
 

 
 

 
 
 

 
―僕は、一人で逃げようと決めた。
 
 
 
 
 
 
 






「母さん、ごめん………
 
今まで…ありがとう。
 
 
どうか、元気で生きていて……」
 
 
 



溢れそうになる涙をこらえて、フードを被り直した僕は、雨の中―森の奥の[ある場所]を目指して進んだ。
 
 
 

その目的地へは、ある[目印]がある。

木の幹に貼り付けられたその小さな印は、夜にしか視認できず、もし見られても、その形状が示す意味を知らない者にとっては意味不明なものだ。

 
この広い森で目印がなければ、目的の場所には辿り着けない。 

母さんが僕を追って来ないように、震える手でそれを取り除きながら向かった。
 


 
 
 
 
 
 
しばらく進み、そこに到着する。
 
 
 

 
 
「…………これだ」
 
 
 

草が生い茂る岩壁の端に隠れているそれは、一見大きいウサギ穴のようにしか見えない。
 
人一人が這いつくばって入るのがやっとという狭さだ。
 

 
 
―実は、この奥がその[ある場所]に続いている。

 
 
 

少し前、母さんが真夜中にこの穴の前に僕を連れて来て話してくれた。
 

この穴の奥の空間に、父さんが暮らしていた場所がある、と。
 
ここの他にもいくつか出口があって、場所は分からないが、いろんな所に繋がっているとも言っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………」
 
 
 
 
もう、僕の事で母さんに苦労をかけたくない。
もしずっと側にいれば、いつかきっと命を失う……

会えなくなったとしても、生きていて欲しい。
 
 
 
万が一、母さんがここに辿り着いても追い掛けてくる事ができないよう、そこら辺の大きな石をかき集めて穴に入り、入り口を泥と石で念入りに塞いだ。
 
 
 


狭い横穴の先にランタンを置き、這い進んでを繰り返していくと―

突然広い空間に出た。
 
 
 

 
 
 

周りを見回す。
 
 
洞窟をそのまま住居にしたようなそこは、随分と古めかしい不思議な物や標本が並んでいる。
何とも独特な雰囲気だ。
 
……父さんが、集めていたんだろうか。
 

 
 
 
そういえば、ここは光の届かない穴の奥深く……
 
辺りの様子が確認できる明るさがある事を疑問に思い、気付いた。
 
 
何故かキャンドルに火が灯っている―
ひとつではなく、部屋の至る所に。 
 
 
 
 
 
 

「……?」
 
 
 
 
 
 
それを不思議に思っていると、奥の部屋から何と人が現れた。
 
 
「わああぁっ!!?」
 
「っ!!?」
 
 
 
 
驚いて大声を上げた僕を見て、その人物もビクッと身を仰け反らせて声を荒げる。
 
 

「なっ、何だお前!!」
 
 
「あっ……あんたこそ誰?!
ここは、僕の父さんの隠れ家だぞ!」
 

 
 
それを聞いたその大柄な人物は、目を見開いて僕の顔を見たまま、ゆっくり近付いてきた。
 
怖くなり、思わず後ずさる。
 
 
 
 
 
 
「お前っ…………

ルカインか!」
 

「えっ……?」

 

言葉を返す間もなく、フードを取られた。
 
 
 
 
 
 

 
「…………あぁ、遺伝しちまったのか…」
 
 
 
とても小さな声で呟いたのが聞こえた。
 

 
冷静になり今気付いたが、この人物も僕と同じ赤い瞳をしている。
 
 


 
「あんた…
……あ、あなたも……吸血鬼…?」
 
「見ての通りだ」
 
 
その人がニヤリと笑って見せた口元には、鋭い牙が光っている。

 
 
 
「俺はヴァン。
お前の親父…オスカーのダチだったんだ。
ヨロシクな!」
 
「よ……よろしく、お願いします…
ヴァンさん」
 
「はは、そう改まんな!
呼び捨てでいいって」
 
 
 
そう言ってヴァンは、僕の頭をがしがしと撫でた。
何だか嬉しそうに見える。
 


 
 
 

落ち着いた僕は、今までの事、ここに来た経緯を話した。
 

 
 
 




「……そうか」
 
 
すべてを聞き終えた彼は、ただ一言そう呟いた。
 
 
 
 
 
 


ヴァンからは、吸血鬼の事についていろいろ教えてもらった。
 

吸血鬼は数自体がとても少なく、普段は身を隠している事もあり、同種と遭遇する確率が低くお互いを認識する事はほぼ無い。
 
その為、父さんとヴァンのように、吸血鬼同士が親友になるケースは極めて稀なようだ。
 
 
寿命が人間の何十倍もあるが、不死身ではなく、怪我などは普通にするし、痕も残るらしい。
致命的な傷を負えばもちろん命を落とす。
 
よく言われているニンニクや十字架などは何ともないが、太陽光だけが弱点で、それを浴びると数分で灰になるという。
 
 
 

そして……
 
父さんがなぜ、死んでしまったのかも聞いた。
 
 

魔女狩りをしている教団の人間達に捕まり、木にくくりつけられた状態で朝日を浴びせられ、処刑されたのだという。
 
 
母さんは赤ん坊の僕を抱いて、それを隠れて見ているしかなかった。

 
 

 
 
愛する人の、あまりにも酷い最後―
 
それはどんなに辛かったか……
考えると、胸が締め付けられる。
 
 
 

 
別の居住区にいたヴァンは後日、それを母さんから聞いたという。
 
 
そして「私達の事はそっとしておいて」と言われ、彼女と赤ん坊―
僕と、会う事も無くなった、と。
 

母さんがそう言ったのは……
ヴァンの姿を見ると、父さんを思い出して、悲しみに耐えられなくなるからだったのかもしれない。 
 
 
 
 




暫しの沈黙の後、ヴァンは静かに口を開いた。





 
「俺はオスカーを、助けられなかった……
今でも…後悔してる。
何であの日、別の場所にいたのか……って、な。
 
本当に、すまない……」
 
 
 
 
僕を見つめる彼の瞳には、涙が滲んでいた。
 
 
 
 
「…ううん、ヴァンは悪くない。
悪いのは……
見境無く処刑する、魔女狩りの奴らだ」
 

「…………あぁ。
アイツらのした事は、絶対に許せねぇ。
 
俺は、神がいるかどうかは知らないが……
もしいるとしたら、そんな事はしないだろうと思う。
それこそ、人間に他の者を裁く権利なんて、ある訳無い。
 
…………あっていい訳が……無いんだ」
 
 
 
 
彼は握り拳を作り、険しい表情で俯く。
 
 

 
 
 
 
 
ヴァンによると、魔女狩りの教団の標的は、魔女だけではないという。
 
  


「…………アイツらからしたら、異教の神を崇拝する者、普通の人間とは違う能力を持つ者……
そして人間以外の存在は、すべて排除の対象なのさ。
 
さしずめ、俺達の事は「会話ができる猛獣」みたいな扱いだろうな。
もし見つかれば……殺される」

 
 
 
 

 
一呼吸置き、彼が続けた。
 
 



「俺も昔一度、奴らに見つかって殺されそうになってな……
その時に助けてくれたのが、オスカーだった。
それがきっかけでダチになった。
 
お前の親父は…
俺の命の恩人なんだ」
 
 
 
 

 
 
話終えたヴァンは、無骨な外見に似合わない、優しい笑みをこちらに向けた。 
 
 
 
 
「ルカイン、ここに住むんだろ?」

「えっ?
………い、いいの…?ここに、いても…」
 
「当ったり前だ!
元々ここは、お前の親父の家だからな。
何なら俺が居候だ。だろ?」
 
 
 
今度は彼に似合う豪快な笑みで、ニカッと歯を見せる。
 
 
 
 
「……ふふっ、ありがとう!ヴァン」
 
 

 
 
 




そして僕は、彼と一緒にそこで生活を始めた。
  
 
 

地下の居住区や空間は、父さんが住んでいたここの他にもいくつかあり、高さがニメートル程ある地下道が分岐して、それぞれが蟻の巣のように繋がっているという。
地図を見せてもらったが、まるで地下の迷宮だ。

 
この居住区の各通路の入り口には、侵入者があった場合すぐ気付けるよう、鈴の付いた紐が張られている。
僕の時は、身体が小さくて紐に引っ掛からなかったから、鈴が鳴らなかったようだ。

ヴァンは「こりゃ改良が必要だな」なんて呑気にカラカラ笑っていたけど……


そして入り口の上には、チェーンで吊るされた石板があり、いざとなったらチェーンを外して入り口を閉じる事ができるようになっていた。

そんな「いざ」は無いに越した事はないが、何だって備えはあった方がいいだろう。

 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
―ヴァンとの生活も板につき、何年か過ぎた。
 
 
 

 


 
僕はその日の真夜中、コンパスと地図を頼りに、昔自分が住んでいた家に一人で向かっていた。
 
 
話ができなくてもいい。
ただ、遠くからでも、母さんが生きている事を確認したかった。
 

 
 
 
 
 



と、前からこちらに向かう一つの灯りが見えた。
 
きっとヴァンだろう。
彼は、死後間もない動物を集めに行っていた。
 
 
 
 




―しかし近付いて分かった。
一人ではなく三人いる。
 
 

 
「…………っ!」
 
 
 
背筋が凍り、とっさに身をひるがえして逃げ出した。
 
 
その時、走る僕の横をヒュンッと何かが掠め、木に突き刺さった。
 
矢だ。
 
 


「この悪魔め、動くなよ」
 


次の矢は既にこちらに構えられている。
 

 
 
―この距離では逃げ切れない。

 
 
 
 


 
覚悟を決めたその瞬間、目の前に大きな影が現れた。

 
 
「ヴァンっ!」 
 
「全く、お前は迷子にでもなったのか?」
 

  
 
 
その瞬間に矢が放たれ、ヴァンの腕に命中した。 
 
 

「!…ってぇなぁ」
 
 

彼は一瞬痛みで顔を歪めたが、矢を引き抜くとすぐに僕を抱えて一目散に逃げ出した。
 
逃げる最中ヴァンは背中にも矢を受けてしまったが、その矢も乱暴に引き抜き、構わず走り続ける。  
 
 
脚が早く森をよく知るヴァンは、暗闇の中魔女狩りの奴らをあっという間に引き離した。
 
 
 
 
 
 
 
 

ウサギ穴の前に着き、急いで中に入り込む。
 
 
 

 
 
 
 
居住区に着くなりヴァンは苦しげなうめき声を上げ、仰向けに倒れ込んだ。 
 
 
 

「ヴァンッ!大丈夫!?」
 
「……ははっ、平気だ。こんなもん」
 
 
 
彼は強がっていたが、何やら様子がおかしい。
額に大量の汗が浮かんでいた。

もしかすると、矢の先に、毒が塗ってあったのか……
 
 
 
 
僕がその傷口に触ろうとすると、ヴァンは血相を変えてそれを制止した。
 
 

「触るな!!」
 
「…………それ…やっぱり、毒が……」
 
「どうって事ない、気にするな。
それよりも……」
 
 

荒い呼吸を繰り返す彼は、深刻な面持ちで続けた。

 



 
「……一時的に撒いたが、奴らは俺達と遭遇した地帯の森をしらみ潰しに探すだろう。
ここが見つかるのも、時間の問題だ」
 
 

 
ヴァンはふらつきながら、のそりと起き上がると、鍵付きの引き出しを開けてガタガタと漁り、その中にあった古びた地下通路の地図とランタン、燃料を僕に押し付けるように渡した。
 
 
 
 
「ここにはもう戻らない。別の居住区に行くぞ。
その通路だ、先に行け」 
 
「分かった」
  
 
 

彼が指差した地下通路に進んで振り返った瞬間―

石板が「ゴゴォン」と大きな音を立てて閉じた。
音が一つでなかったのは、いくつかの石板を下ろしたからだ。
  
 
  
 
「ヴァンっ!!」
 
 
「……ルカイン…
お前には、絶対無事でいてほしい。
その地図の矢印通りに進め。
そうすれば……俺が住んでいた居住区に辿り着く」
 
「何でだよ!一緒に逃げたらいいだろ!!」
 
 

石板を力一杯押してみたが、全く動かない。
この扉はとても重く、僕一人ではビクともしない。
 
 
 
分厚い石板を隔てた向こう側から、くぐもったヴァンの声が聞こえた。
 
  
 
 
 
「俺は……
もう、大切な奴を…なくしたくないんだ。
オスカーに救われた借りを、今返す」
 
 
「僕だってヴァンが大切だよ!!
なのに、何で……!
 
嫌だ………こんなの……っ
 
嫌だよ……!!」
 
 
 
 
僕は開きもしない石板を拳で叩き続けた。
 
手から血が滲んでいたが、そんな事はどうでもよかった。
 
 
 

 
 
「……手負いの俺と一緒に逃げれば、お前が助かる確率が低い。
だから別々に逃げるんだ。
 
…………もし俺が生き延びたら、いつか会えるさ」 
 

 
 
―分かっていた。
ヴァンは、死を覚悟している事を。 
 
 
 



 

 
「絶対……
絶対、生き延びて…………

僕の所に来て……」

 
「…………あぁ。
お前も、意地でも生きろよ。

俺と……オスカーの分まで……な…
約束だ」
 
 
 
彼の声は、少し泣いているように聞こえた。
 
 
 
 
 
「……俺も別の通路から逃げる。早く行け!」
 

「…………うん…

待ってるから……っ」 
 
 
 
 
僕は溢れる涙を腕で拭いながら、走ってその場を後にした。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「はぁっ、はぁ……っ…………」
 
 
 
 
 

途中から走る気力もなくなり、トボトボと歩きだした。
 
 
真っ暗な通路を、ランタンの灯りを頼りに歩き続ける。
 
 

 

 

 
 
 
 


―あれから、どれくらいの日数……時間が経ったのかも分からなくなっていた。

 
 
 


と、空気が通る音が聞こえてきた。
 
 
どうやら辿り着いたようだ。 
 
 

 
 
―行き着いたその居住区は、前の所とは違った雰囲気だった。
 
 
 
壁や家具の配色が独特で、たくさんの本が並んでいる。
 
 
伝承録、古文書……
中には[悪魔払い]や[召喚]の方法など、変わった内容のものもあった。
 
 
 
 
 
 
―時間はいくらでもある。
 
僕は、そこにある本を片っ端から読破していった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
―それから、長い長い年月が流れた。 
 
 
日にちを数えていない為正確ではないが、何百年か経っただろうか。
 

遠目にしか見ていないが……
人間社会も随分と進歩したようだ。

 
 
  
 



 
彼―
ヴァンが、私の元を訪れる事は無かった。
 
 
心当たりのある地域や居住区を探したりもしたが、駄目だった。
 
 
 
それはほぼ、彼の死を意味していた。
 
 

 
 
 
……それでも、私は彼を待ちたかった。
 
 
その為に生きているようなものだった。

 



 
 
 
しかし生きていくには、生き物の血が必要だ。

 
生きている動物から死なない程度に血を吸えればいいのだが……
それをしてしまうと、その動物は[半吸血鬼]という状態になる。

人間の半吸血鬼であれば、理性があるので血を吸う事もないだろう。
だが、本能のままに生きる彼らは話が別だ。
 
 
前に一度だけ、狐を半吸血鬼化してしまった時……
その子は、他の動物を手当たり次第噛み殺して血を求める、凶暴な怪物となった。
 
 
 
 
私は……その狐を殺めるという、苦渋の決断を下した。

 
仕方なかった、というのは簡単だが、その子に罪は無い。
 
悪いのは私……
 
あれは、私の罪だ。
 
 
 
 

 
   

だが、そんな事があろうとも、血を求める日々は続く。
 
死んだばかりの動物を見つけられず、生きている動物に手をかけてしまった日は、亡骸を埋めて冥福を祈った後―
自らの身を、戒めの意味を込め、鞭打って懺悔した。
 
 
そうして私の身体は、鞭の痕だらけになっていった。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

ある晩、森で動物の死体を探していると、おばあさんがいた。

…………様子がおかしい。
 
 
 
近づいてみると、どうやら身体の中に悪魔が入っているらしく、一人で話していた。
 
何故か身体の周りが黒いもやで覆われているように見える。
 
 
こちらには気付いていないようだ。
 
 
 
 
 
私は試しに、悪魔払いの書で読んだ中で、自分ができそうなものを実践してみた。

心の中で呪文を唱え、相手に向かって十字を切る。
 
 
 

すると、彼女は話すのをやめた。
どうやら成功したようだ。
 

正気を取り戻したその瞳が私の姿を捉える。
が― 
  
 
 
 

「ひ……!あ、悪魔っ!!」
 
 
 
おばあさんは、よたよたと走り去っていった。
 
 
 
 
 
 
その背中をただ見送る。

 
 
 
 
 
 
 

 

―そうか。
 
普通の人間からすると、私も悪魔のようなもの。
 

そんな私が悪魔払いの方法など覚えていて、一体何になるというのか。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 


「ふふ……ふはは」
 
 


ただ動物の血をすすって生き長らえる、異形の者が……人助けなど―
 
 
滑稽な自分に、一人可笑しくなり笑ってしまう。
 

 
 
 





自分がこの世に存在する意味を、最早欠片も感じなくなっていた。
 
 
 
 
 
 


 

私はまるで疫病神だ。
 

愛犬のエリオットは、私を守る為に命を失い、母に苦労をかけ、ヴァンは……
 
 
 
 



 
私にはもう、大切な人もいない。
 
失うものは何も無い。
 
 
 
 
 
 
 
 

いつか、血に飢えたあの無意識の内に、人間にまで手を出してしまうのかもしれない―
 




 
 
 
そうなる前に、この生を終わらせよう。
 
 

そう決めた私の心は、何故だか、静かな湖の水面のように穏やかだった。
 
 








 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

―夜明け前、居住区を出て向かった先は、見晴らしの良い崖の上。
 
 
ここなら朝日を全身に浴びる事になるだろう。
 
吸血鬼になってから、最初で最後の日の目だ。
 
 
 
 
 
 

……もう、何かを失う心配も、傷付けることも無くなる。

 
とても晴れやかな気持ちだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
その場に立ち、木々の葉擦れの音と、草木の香りの中、ただ静かに時を待つ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


―と、人の足音が聞こえた。
 
 
 
振り向くと、一人の少年がこちらを見て立ち尽くしていた。
  
 
彼は、生気が失われた真っ白な顔をしており、悪魔に取り憑かれた人間が纏う、独特の黒いもやが見えた。

 
 
あぁ、気の毒に……
相当苦しんだのだろう、全身痩せこけている。

 
 
 
せめて一時的にでも解放されればと、今すぐにできる悪魔払いを施した。
 
エクソシストの修行をした訳ではない私には、これが精一杯だ。
 

しかし無駄だと思えていた知識を、最後の最後に使う事になるとは……

こんな私でも、誰かの役に立てて良かった。
 
 
 

 
 
 

彼は少し生命力を取り戻し、会話ができるようになった。
 
 
ここに来た目的は、どうやら私と同じのようだ。
 
これも何かの縁かもしれないな。
 
 

 

 
 
 
 
彼―
ニアは、本当は生きていたいと願っていた。
 
しかし、悪魔の呪縛から逃れる事は、容易ではない。

 
 


私は、何とか彼を助ける方法はないかと考えた。
 

 
 




―そこで思い出した。
 
 
 
悪魔の召喚に長けていた、とある魔術師の伝記の一説だ。
 
 


それによると、悪魔は、妖精や天使等、人間以外の異形の存在に手を出す事ができないルールがあるという。

異形の存在の中には―
吸血鬼もその一種として記されていた。

 
 
 

彼が人間でなくなれば……
吸血鬼になれば、あるいは、悪魔から解放されるかもしれない。
 
 



 
私が[半吸血鬼]について知ったのは、本に挟まれていたメモを見たからだ。
 
父さんかヴァン……もしくは、他の誰かが書き残したものだろう。
 
 

それによると、
[吸血鬼が人間の血を致死量近くまで吸い、もしその人間が命を取りとめた場合、人間と吸血鬼の中間のような存在―半吸血鬼になる]
と記されていた。
動物だけでなく、人間も半吸血鬼化する事が分かったのはこの時だ。
 
他にも半吸血鬼の特性等が少し書いてあったが、真偽の程は定かではない。
 
 
 
 
 

しかしただ死んでしまうくらいなら、少しでも可能性のある方を選んだ方がきっといい。
 

今から死にゆく私が、こんな事を偉そうに言える立場でもないが……


 

 
私は、この一か八かの賭けを、ニアに提案する事にした。
 
 
 
 



 
―彼は、その可能性に賭ける事を決めたようだ。
 
 
 
 
 
人間を吸血するのはこれが初めてだ。
 
 
意を決して、その首筋に牙を立てる。
 
 
 



どんどん溢れ出す血を吸い続け、しばらくすると、ニアは失血により気を失った。
 
 

動かなくなった彼を、朝日が当たらない場所に横たわらせる。

―今の所、息はある。
 
 

 
どうか、うまくいきますように……
 
 
 

 


 

今生最後の朝日を浴びるべく、曙光で染まりゆく空を見上げ、夜明けを待つ。
 
 
 
 
 
 
 
 



 
母さん、エリオット―
 

本当に……ごめんなさい。
この決断を下した私を、どうか許して欲しい。
 
 
 
 
 
ヴァン―
 
 
「意地でも生きろ」って約束……
守れなくて、ごめん。
  


  
 
でもこれ以上、何かを犠牲にして生きたくはない。
 
いつか、人の命までをも奪ってしまう前に……
この生を終わらせる。
 
 


 
 
 
山の稜線から朝日が現れ、遥か頭上の空に光の道が伸びる。
 

 

 
 

―ありがとう。
私が生きる為、犠牲になってしまったすべての存在達。
 

これでもう、何者をも傷付ける事はない。
 
 
 
 
 




目を瞑り、その光を全身に浴びた。
 
 
 








 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 


 
「…………………………」
 
 
 
 
 
 



何故だろう。
 
 
 
 
朝日を浴びて数分経つというのに、まだ私はここにいる……
 
 
生きている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

目を開き、ふと自身の手を見て衝撃を受けた。
 
 
 

「………………?!」
 
 
 
 
 
 
 
まさか……! 
 
 
自らに起きた変化を信じられなかった。 
 
 
 
 

身体は灰にはならず、皮膚が軽い火傷のように赤くなっているだけだ。
 
 
それは、日の光に耐性がある半吸血鬼の特徴だった。

 
 
 
 
 

 
 
 



「私も…半吸血鬼化している……!」
 
 
 
 
 
 

驚きのあまり力が入らず、何とか近くの木陰に歩み入り、ゆっくりと座り込んだ。
 
 

 
 
予想外の出来事に、頭が真っ白になる。
 
 

そして徐々に、歓びの感情が沸き上がり、自然と涙が溢れていた。
 
 
 
 
 
 
 

  
「そうか……私は…

もう、血を吸わなくても、生きていけるのか……」
 
 
 
 


 
もう一つの半吸血鬼の特徴、それは―
[血を吸わずとも、人間と同じ食事で生命を維持できる]事。
 

 
自分は、他の命を犠牲にせずとも生きていける。
 
 

 
 
 
 


木陰で横になるニアに視線を移す。
 
焦げ茶色だった彼の髪は、白く染まりつつあった。
 
 
 
―どうやら、半吸血鬼化は成功したようだ。
 
良かった。本当に……
 
 

 
 
私までもが半吸血鬼になった原因は不明だが、彼のお陰である事は確かだ。
 
 

 
 

 
 
 
 
 
と、ニアが目覚めると共に咳き込み出す。
 

大丈夫だろうかと様子を伺っていると、彼の口から大量の黒い煙が吹き出した。
 
 
予想は当たっていたようで、純粋な人間では無くなったニアの身体に悪魔達が居られなくなり、出てきたのだ。
 
 
 

片方の悪魔は相当腹を立てており、もう片方は飄々としていた。
 

そして手を出せない為諦めたのか、悪魔達は去った。
 
 
 
 
 
 

 
 

 




朝日の満ちる静かな森の中、歓びの抱擁を交わす。
 
生きている事に歓びを感じたのは、何百年ぶりだろうか。
 
 
 
 

 
私達は、お互いが命の恩人となった。
 
 
人と人は、廻り合わせというものがあるのだな、と思わざるを得ない。
 
 
 
 
 
忌み嫌われる存在の、この私にも……
出来る事はあったのだ。
 
 
 
最後の最後で助けられ、生かされたこの命―
 
誰かの為……
平和の為に生かしていこうと、心から誓った。
 
 
 
 
 








 
 
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